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ノンジャンル

笑里と諒人

   2015年9月1日  

 
 突然来店した子どもたち。
 一人は気の強い少女笑里と、もう一人は泣き虫の少年諒人。
 二人がまっすぐに目指したのは、他でもない諒の元だった。
 笑里と諒人の突然の登場に狼狽する諒。
 笑里が語り始めた過去。
 その続きを語る諒。
 諒が語った三人の関係と過去を聞いたスタッフ達は、諒には何としてもここで働いてもらおうという気持ちと指導に対する闘志をみなぎらせるのであった。

 

 
 レストランで明日からの業務に向けて先輩スタッフから色々な事を教えてもらう諒だが、一つだけ気がかりがあった。
 ピアノの近くの壁に掛けられた掛け時計をチラリと盗み見ると、時刻は午後十二時を三十分ほど回っていた。
 約束の時間を三十分ほどオーバーしているのだ。

―もうちょっとかかっちゃうなぁ…。ごめんね。

 諒は“彼ら”に心の中で謝罪したその瞬間だった。
「遅ーい! やっぱりここにいた!」
 ドアを開けっぱなしていた店の出入り口から、よく揃った二人の子どもの声が店内に響き渡った。
 全員揃って子どもたちの方に視線を向けると、二人は店の出入り口で腕組みをしたままむすっとして仁王立ちのままこちらを威嚇してきている。
 年齢は、幼稚園と小学校の間と言ったところだろうか。
 スタッフ達は顔を見合わせては,互いに小首をかしげるばかりである。
 誰の知り合いなのか、見当がつかない。
“お前の知り合い?”“いや違う。”
 そんなやる取りが無言のまま交わされる。
 子どもたちはずんずん店内に入ってきて、大人の間をかき分けていって。
「何ボーっとしてんの!」
 そういいながら、小さな手で諒の手を握った。

―えっ…?

 みんな目を丸くし、諒のみワタワタと狼狽している。
「だめだよ入ってきちゃ…!」
 諒は二人の子どもにそう言い聞かせるばかりだった。
「お昼前には帰ってくるって言ったのに! 約束破っちゃだめでしょ!」
 少女はそう言って思いっきり諒の腕を掴んだ。
「僕にもいろいろ都合があってね、」
 諒が少女を説得し始めた矢先に、今度は一緒にいた少年が大声をあげて泣き始めた。
「ちょっと…、今泣いちゃだめだってば…! あっくん泣きやんで…、ね…? あとちょっとだから。」
 諒は自分のポケットからハンカチを取り出して、少年の鼻水をぬぐいながら諭す。
 目の前の状況に、皆置いていかれてしまっていた。
 いきなり現れた二人の子ども。
 一人は諒に掴みかかって怒鳴る女の子。
 もう一人はひたすら泣きわめく男の子。
 諒の“何か”であることは確かだが、関係が全く読みとれない。
「し…親戚か…?」
 大和は遠慮がちに諒に話しかけると、少女は大和の方を振り向き、ふくれっ面のまま大和の方に歩み寄る。
 その迫力に大和は無意識に押されてしまって、二歩三歩と後ずさりをした。
「お兄さんのお話が長いから、終わる時間が遅れたの?」
「こら! 笑里!」
 少女の背に諒は声を投げ、少年の鼻をぬぐいきって少女の方に駆け寄った。
「すみません…! この子少し気が強くて…。」
 困り果てた表情で大和に謝罪して、諒は少女に話をし始めた。
「いや…、いいんだけどね…。諒クン…?」
 諒のペースに引きずり込まれてしまい、大和の言いたかったことが口の中から腹の底へと消えていく。
 この状況についていけている人間は、残念ながらこの場には居合わせていない。
 ただ目の前には、怒り心頭の少女“笑里”と彼女をなだめる諒がいる。

―何だこれ…。

 色々と収拾がつかなくなってきて、皆諒たちに何と声をかければいいかと思っていると、先程大泣きしていた諒が“あっくん”と呼んでいた少年が諒の元に歩いていって小さな手で諒の背中をたたいて言った。

「パパおなか減ったぁ。」

 その場の空気が、諒と子どもたちを除いて停止して。

「パパ~!?」

 諒の過去を知っているマスターと心治以外の人間は少年の言葉に耳を疑い、大声で問い返したのだった。

 

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