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RAT <五>

   

 京子のお陰でラットの家が完成した! が何故かラットは入るのを拒む。たわいのない会話から京子の本質が見え隠れする。
 小説【RAT】第一部の終了。本当の物語はこれからなのだ。

 

 
「ラット!」
 俺がそう叫び、ラットに近付き手のひらを差し伸べた。ラットはクンクンと鼻をならし、手を伝って肩に乗り耳元で小さく、チュウっと鳴いた。
「この子がそうなのね! きっとお留守番に耐えられなくなって、君を探してたんじゃないかな? 君の匂いのする場所。つまりベッドによじ登って君の匂いを追っていた。ご主人想いのいい子だね」
 京子は目を細めてラットの頭を人差し指で優しく撫でた。
 ぐっと目を閉じ、撫でられる喜びに浸っている様な、そんな表情をした。ネズミにも表情がある。痛い時には痛い顔をするし、嬉しい時には目がキラキラとしている。俺もラットになって、京子に頭を撫でられたいものだ。
 早速、京子が袋からケージを取り出し、セッティングを始めた。俺はラットを肩に乗せたままキッチンへ向かい、冷えたグラスに氷を入れ、一度水で氷をゆすいでからコーラを注いだ。こうすると氷の表面のギザギザが取れてコーラの泡が溢れるのを抑えてくれる。味も少しスッキリとした、缶のままの味ではなく、ファストフード店なんかで飲むコーラの味に近くなるのだ。
 デニムで作ったコースターを敷いてテーブルの上に置いた。いつの間にかケージの中には床材が敷かれており、水受けまで設置されていた。つまりラットの家が完成したのだ。
 俺は肩に乗っているラットを手のひらに乗せ換えて、ケージの入り口辺りに持っていった。
 しばらくの間、鼻をクンクンしながら様子を伺っていたが、急に向きを変えて俺の肩へと戻ってきた。
「なんだよラット、せっかく買ってきたのに気に入らないのかよ!」
「う~ん……気に入らないってよりかは、君の肩のほうが居心地が良いって感じだね! しばらく甘えさせてあげなよ」
 肩に小動物を乗せて街を歩く麻薬の売人がこの世界のどこに居る? なついてくれるのは嬉しい事だけど、ケージに入らないのであれば外を出歩けない。という事は稼げなくなる。これは問題だ。
 ラットは疲れたのか、俺の肩に腹ばいになって両手を前に真っ直ぐ伸ばしている。
「あっ! お腹すいてるんじゃないかな? 今朝から何も与えてないんでしょ」
 それもそうだ。俺は京子がテーブルの上に置いていてくれた餌の箱を開け、中から小さく黄色い円柱の形をした塊をラットの口元へ持っていった。するとラットはスクッと立ち上がり、二足立ちでおねだりをし始める。短く白い両手で餌を掴み、小さな口で少しずつ噛み砕いていった。
「本当だ! やっぱりお腹がすいてたんだね」
 美味しそうに餌を頬張るラットを俺たちは微笑ましく見つめていた。しかし京子の表情には、何か物悲しいと云うか、ラットを哀れんでいるかの様にも見えた。

 

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