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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode5

   

大雅の前に、謎の女性、玲奈が現る。

本格ミステリー!
44口径より、愛を込めて

 

「彼と結婚した時の気持ち、どうだった?」
 そう、奥さんは私と大雅の結婚生活の経緯を知らないのだ。
「……この人を、信じなきゃって思いました」
 そう答えるより他になかった。
「その気持ちが自然になれたら、きっと今以上に幸せになれるわ」
 ケンさんの奥さんは、とても優しくて、何より幸せそうだった。
“いいな”なんて思った。
 二十一時を回る頃、お誕生日会はお開きとなった。私がプレゼントしたお花の髪留めをして、小春ちゃんは玄関まで送ってくれた。とても気に入ってくれたようで、私とお揃いである事も同時に喜んでくれた。
「魔夜さん、大雅さん、また来て下さいね!! 陽太兄、ちゃんと二人を送ってねーー!!」
「はいはい、お姫様」
 二十二時を過ぎた頃、私達の家の前で陽太君の車は停車する。
「ごめんね、手間かけさせて」
「気にしないでください! では、また明日」
「ありがとう、おやすみなさい」
 クラクションを合図に小さく鳴らし、陽太君の車は走り去っていった。
 取り残された様に車を見送る私達の間を、時折吹く初夏の風が、気持ち良くも切なくも感じた。
「魔夜、入るぞ」
 大雅の声に振り向いた。
「ごめん、ちょっとコンビニまで行ってくる。先、寝てていいから」
 少し散歩でもしたい気分になったから。
「わかった、車のキー取ってくるからちょっと待ってて」
「いいよ、歩いて行くから」
 逃げるように小走りで十メートル程進んでから歩調を戻したところに、大雅が横に並んで歩調を合わせてきた。
「そんな顔すんなよ。夜道、女一人で歩かせらんねーだろ」
「そんな顔って、どんな顔よ」
 何故か少しだけ、嬉しかった。
 コンビニに行くというのはただの散歩の口実で、特別欲しい物はなかった。結局コンビニで購入したのは、冷えたミルクティー缶と彼が手に取った冷たい珈琲缶のみ。
 帰りに少し寄り道をして、近所の小さな公園に立ち寄った。昼間買い物などで通りかかると常に子供でいっぱいのこの公園も、今の時間は誰もいない。私達の貸切だと思えるくらい、静かだった。
 公園を照らす街灯の明かりの一つが、不規則に消えたり付いたりを繰り返しながら、電球の替え時を告げている。
 私が公園のベンチに腰を下ろすと、大雅も隣に腰を下ろした。家ではいつもこうして並んで座っている筈なのに、今に限ってなんだか距離が遠く感じる。
 今に限って? そもそも私達の距離って、どのくらい離れているんだろうか。
「風が気持ち良いな」
 先に沈黙を押し破ったのは、大雅の方だった。
「どうしたの? 心ここにあらず、って感じだな」
 私は、ミルクティー缶の蓋を開けた。
「……このまま、このまま何も思い出さなければ、このままでいられるのかな?」
「え?」
「ケンさんと、陽太君と、大雅と、私で。いつまでも、楽しく過ごせるのかな」
「………」
 彼も珈琲缶の蓋を開けた。
「きっと、続かないよ」
 大雅の冷たい言葉が、その場の空気を死んだ様に錯覚させる。
「思い出さなくても続かない。こんな、偽り」
 悲しくて、苦しくて、私は堪らずミルクティーを半分飲み干した。
「それに、俺はゴメンだね。こんな偽りだけの毎日」
 彼も、珈琲を飲んだ。
「将来も、何もないものね」
 もう、この話は辞めようと立ち上がった時、珈琲を飲み終えた彼の顔が、文句ありげにふいっとそっぽ向いた。
「何?」
「なんでもない。もう遅いし、行こう」
 言い終わるが早いか、大雅は立ち上がると私を追い越し、先頭切って歩き出す。私は、慌ててその後を追いかけた。
 帰り道。今まで忘れていたツーピースの女性客の事を、ふと思い出した。
「ねぇ、大雅。そういえば昼間、男性の店員はいるかって女の人が訪ねて来たよ。ショートカットで、ツーピースを着た人。また来るって。知ってる?」
 不機嫌そうな横顔がこちらを向いた。
「気になる?」
 私は答えられす、聞こえないフリをした。大雅もそれ以上何も言わす、二人無言のまま家路を急いだ。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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