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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <六>

   

 最高だよ京子。毎日、毎朝食べたい位だよ。俺は京子の作ってくれた朝食に感激していた。
「私、帰っても居場所がなくって……それにここなら部屋数もあるし、毎日料理作るから暫くここに居させてもらっても良い?」
 京子の意外な発言に脳の優位半球は働かせる俺。でも分かって居た。これが幸せなんだって事を……

 

 
 朝。コトコトという音で目が覚めた。何故自分がソファーで寝ているのか? どう云う状況なのかイマイチ把握出来なかった。ただ、空腹の蟲が蠢き、漂う柔らかないい匂いに反応した。
 ふと台所に目をやると、京子が鼻歌まじりで何かしている。起きようとしたが、額に当たる生温かい物が気になった。何かと思い、手で探るとビクンと動いた。
「うわっ!」
 額に乗っていたのはラットだった。まだ眠いのか、俺の手のひらでゴロゴロしている。
「おはよう! シャワー借りたよ。あっ、ビックリしたでしょ? 私も朝起きてきて、その状態だったから、あまりにも愛らしくて写真撮っちゃった!」
 いつの間にか、俺が寝ている間にラットは俺の顔によじ登り、おでこをベッドに眠っていた様だ。ラットをラット用の枕の上に置き、リビングのテーブルに腰掛けタバコに火をつけた。
 しばらくボウっと煙を見つめていたが、灰が一塊テーブルにこぼれ落ちた時、この部屋で起こっている全てを理解した。
 これは夢なのか? それともラリっているのか? いや、昨日は寝酒にウイスキーを少し飲んだだけだ。そしたらこれは……現実だ。ある意味夢が叶ったのだ。
 テーブルに運ばれてくるお皿には、薄黄色にフワッと仕上がったオムレツに、ベーコン、焼きたての香ばしい香りのする食パン。銀色の汗をかいたコップには真っ白のミルクが並々と注がれている。
 俺は普段朝食を摂らない。なので朝日を浴びながら優雅に朝食を楽しむなんて、フランス映画みたいな事は初めてだった。それにオムレツから漂う濃厚なバターの香りに食欲が掻き立てられる。俺はスプーンを手に取り、黄色の優しい丘に寝そべった。
「ダメだよ。いただきますが先!」
 スプーンをテーブルに置きなおして、両手のひらを合わせた。

『いただきます!』

 再びスプーンを手に取り、オムレツを一すくいして口の中へ放り込む。バターのコクと丁度良い塩加減が、俺の左手にトーストを取る様に指図する。トーストを囓り、咀嚼する。口の中一杯に新鮮な幸せが溢れた。
「ふふっ。どう? 料理は得意って言ったでしょ?」
 京子はテーブルに両肘をつき、手で顎を支えながら、俺がむさぼり食っている姿を微笑ましい表情で見つめている。
「最高だよ! 京子。毎日、毎食、食べたい位だよ!」
「……いいよ」
「ははっ、さすがに毎日は……って、良いの?」
 まさか肯定するとも思っていなかったものだから、普通よりもかなり大袈裟なリアクションを取ってしまった。危うくコップのミルクをぶちまけてしまうとこだ!
「私、帰っても居場所がなくって……それにここなら部屋数もあるし、毎日料理作るから暫くここに居させてもらっても良い?」
「良いよ!」
 即答だ。拒否する理由が見つからない。毎日、毎朝京子の顔が見られる。毎日、毎朝京子の手料理が食べられる。夕方には一緒に買い物に出かけて、何食べよっか? ってスーパーのカゴを押しながらアボカドの硬さを確かめる。京子がパスタを茹でている間に俺は熟したアボカドのサラダを作る。あぁ、なんか夢みたいだ。
 足元にモゾモゾっとした感覚が、俺を妄想から引き戻した。テーブルの下を覗いてみると、ラットが俺の足によじ登ろうとしていた。ひょいと持ち上げ、肩にのした。ラットは二本足立ちで両手を上下に振っている。
「さっきまで寝ぼけてゴロゴロしてたくせに、起きた途端に朝ごはんの要求かよ!」
 京子が餌の箱から何粒か取り出し、ラットに手渡した。それを両手で掴み、ガリガリと口の中へ押し込んで行く。人の肩の上で食べるから、俺の肩は餌のカスで一杯だ。
「でも不思議よね、ラットちゃん。そんなになつくなんてハムスターでも珍しいわよ。なんだか言葉が解っているような、君と一心同体って感じだね」
 確かにそうだ。ハムスターを飼っていた時、こんなにスキンシップを取る事は出来なかった。噛み付くし、糞はそこら中に撒き散らす。ただケージには入ってくれた。ラットはケージに入ってくれない。
 今日は京子の部屋作りと、ラットをケージに入れる事に専念しよう。でないと外に出られない。

 

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