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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode6

   

大雅の病気に、酷く憂鬱になる魔夜。
そんな魔夜に、松野婦長が優しく相談に乗ってくれる。
ひとまず落ち着いた魔夜であったが…。

本格ミステリー!
44口径より愛を込めて

 

 それを大雅の手を取り握らせると、愛おしそうに彼の頬を数回撫でた。
「ねぇ、爽介。また明日来るから。ちゃんと思い出しておいてね」
 玲奈さんは立ち上がると、生まれたての子馬の様によろめきつつ、扉やら壁やらに身体をぶつけながら店を後にした。
 終始何も言えず、何もできず、立ち尽くしたまま見過ごす事しか出来なかった私。
 大雅に目をやると、彼は真っ青な顔で、玲奈さんが先程まで崩れ落ちていた場所を見つめていた。
「大雅」
「…………」
「ねぇ、大雅」
 二度目の呼び声に、彼の肩がぴくりと反応した。
「……ぇ?ぁ、ぅん?」
 目は泳いだまま、視点は定まらず、曖昧な反応しか示さない。PTSD発作?実際、私も大雅もコーラカル・アヂーン大量虐殺事件によるPTSDとの診断結果が出ているので、症状に対して敏感になっている。
 まともに立てなくなった大雅を家の方に送り届け、店に戻ろうとした時に彼が呟いた。
「……書いてあった名前だ」
 私の胸に、ナイフで突き刺された様な痛みが走った。それを誤魔化すように、ソファで伏せる大雅の顔を覗きながら、彼の髪を撫でた。
「怖い。なんだか解らないけど、すごく嫌なんだ。爽介って、あの人に呼ばれると……すごく胸が痛い」
「大雅の、本名?」
 私の問いに、彼はこくりと頷いた。
 玲奈さんが渡したモノを、大雅の手から拝受する。彼に握り締められクシャクシャになっていたそれは、写真と汚れたハート型のシルバーストラップだった。写真には、玲奈さんと、彼女を抱きしめる大雅の姿が写されている。二人共幸せそうで、大雅に関しては見たこともない笑顔だった。
 再び、私の胸に先程より鋭い痛みが走った。少しずつ呼吸が苦しくなってきたのだけれど、メランコリックと言うか酷く錯乱状態の大雅を見ていたら、不思議と持ち直す事が出来た。
 私は写真とストラップを、ソファ横の小さなテーブルに置いた。
「お店、閉めてくるね。今日は、休もう」
 どうせ、客なんて来やしないだろう。私だけ店に居ても良かったのだが、彼が心配だったのだ。
 この日は一日中、私は大雅の様子を気遣いながらも側で色々考えていた。病気の事、治療の事、玲奈さんの事、私自身の事。時々、ネットで調べたりなんかもした。結局、自分が何を知りたいのかもわからなくなってしまい、夜には頭が痛くなる程だった。
 そして気付くと、自覚もないまま病院へと婦長宛に電話をしていた。
 この日、婦長はたまたま夜勤だったようで、電話に出てくれた。そして明日午前中に、少しだけ会って話をして貰えることになった。私の胸は、明日婦長と話が出来ると決まっただけで、随分と楽になっていた。
 大雅の事は、少しだけ無理言って陽太君に頼もう。独りにしておくのは、少し心配だ。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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