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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<17> 〜モモヨさんと敵情視察。そして引き抜き!〜

   2015年9月11日  

縁て不思議なものね。
お客を取られてて嫌だったつきよのモールにある文具店《クエスチョン》に偵察に行ったの。そしたらこの《クエスチョン》で万年筆担当の高橋 直(なお)くんに再会するじゃない!これはぜひともうちに欲しいわっ!
『モモヨさんと敵情視察。そして引き抜き!』へどうぞいらっしゃい!

 

モモヨさんと敵情視察。そして引き抜き!

「栄ちゃんの遺産なあ……」
 向かい合ったおじいちゃん弁護士である及川弁護士は、つるつる頭をぺろりと撫でた。
「春代ちゃんに言われて俺は全部整理したつもりだったんだがなあ」
「ですよねえ。わたしも全部済んだと思ってました」
 百代さんは及川弁護士手ずから淹れてくれたお茶を飲んだ。証書を眺め回す及川弁護士の、ピンと張り詰めた空気が、少し居心地が悪くて、布カバーのかかったソファで身じろぎした。
 突然夏が去ってしまった、秋の初めの木曜日のことだ。
 百代さんは及川弁護士に父・栄治さんが持っているという土地の相談に来ていた。
「ま、とりあえず調べてみるよ。今日役所に行くから、夕方に分かるだろう。――ところでずいぶんめかしこんでるが、これか?」
 及川弁護士が親指を立てるので、「セクハラですよ」とドスの利いた微笑みを見せた。
「なんだ。違うのかい。俺はてっきりタカアキとなんかあったのかと思ってたよ。お前さんたちはちっとも結婚しないなぁ」
 百代さんとタカアキさんのことは父や母から近所や取引先に筒抜けだ。それを良しとしてしまう図太さと大らかさが、月世野の人々にはあった。
「違いますよ、先生は相変わらずですねえ。つきよのモールにおでかけです」
「あそこかい。俺はどうもなじまなかったよ」
「この辺は商店街がありますからねえ」
 胸の裡でこっそり(敵情視察ですけどね)と付け加える。
 客を取られているつきよのモールに絶対に行くまいと思っていたけれど、栄治さんの土地が出てきたことで考えが変わった。
 うちとなにが違うのかみたい。
 違うところを見つけて、それを活かしたい。
 そう決めた。
「帰りがけによるかい? それとも電話しようか?」
「電話でお願いします。夕方、配達が来るんでちょっとばたばたしますけど、その頃には帰ってますから」
「分かった。じゃ、用件はうけたまわったよ」
「よろしくお願いします」
 スカートの裾を払って立ち上がると、及川弁護士が玄関先まで見送ってくれた。
 プレイボーイでならした及川弁護士が手を振るなか、キーをキュルンと回して百代さんは手をふりふりモールまで車で十五分の距離を走った。

 

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