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SF・ファンタジー・ホラー

幻幽綺譚<9> 陰膳(下)

   

 独逸国の田舎にある忘れられた古城。時はあたかも陰鬱な三月。
 幻幽の瞑界の扉が開きます。

 

 山本昭夫の話は続いた。

 薄暗い廊下を背にして入り口に立っているのは、さっきの女性だ。
 よく見ると、やはり東洋人だ。
 それに、話しかけた言葉は日本語。
 俺は、素直に頷いて、「お願いします」と言ったよ。
 それで、その日の午後は、ずっと彼女の案内で城の中を案内してもらった。
 やはり女性だな。
 戦争で活躍したはずの槍や剣の説明より、女王が婚礼に持ってきた宝石箱の説明の方が詳しかったよ。
 博物館のガイドみたいな案内じゃない。
 自分の住まいを案内しているみたいだった。
 二人で適当に雑談を交えて、部屋のソファに座ったりしながら時間を過ごしたんだ。
 それで、半日を過ごした後、よければ一緒に夕食を食べないか、とさそった。
 どうみてもホテルの使用人ではないし、貧乏旅行をしているヒッチハイカーにしては品がよい。
 歴史でも勉強に来ている留学生といった感じだったね。
 だから、異国での旅の無聊を慰める知的な会話をしたい、と切り出したんだ。
 さあそれで、夕食は、陰膳なんかじゃない。
 ちゃんとした女性と相対して、白ワインと鱒のムニエルを堪能したよ。
 ウエイターの老人は、何も言わずに薄笑いを浮かべていた。
 心の中で、「この助平め」と笑っている、俺はそう思ったよ。
 会話は知的だったね。
 彼女、和歌が趣味らしくて、新古今の幽玄性のことを話していたよ。
「あら、私ばかり話していて、すみません」
 それで俺の事になったので、さりげなく医者であることを言い、さりげなく学問研究という知的な人生を送っていることをほのめかした。
 彼女、俺が医者だと分かると、子宮癌のことを聞いてきた。
 そりゃあ相手は素人だから、難しいことは言わず、百年も前なら癌は不治の病かもしれないが、現代なら、早期に発見すれば心配することはない、と安心させておいた。
 学生時代なら、「子宮癌が心配なら診て上げようか。裸になってご覧」っていうところだが、今は違う。
 知的に会話をして、そのまま自然に二人で部屋へ行ったよ。
 ベッドの上では、彼女、一変したな。
 情熱的にからみついて来るんだ。
 「日本のお方はひさしぶり」そう言って舐めまわすんだぜ。
 俺もそれに答えて、明け方まで眠れなかった。
 そのままぐったりして眠り、目が覚めたのは午後だった。
 ベッドに彼女はいなかった。

 

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