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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode7

   

大雅の記憶が徐々に戻り始め、玲奈との関係が明らかになる。
そのことに酷く不安を覚える魔夜であったが、更なる事件が二人に襲いかかる。

本格ミステリー!
44口径より、愛を込めて

 

 ガン! と無機質な音を立てて、私の足元に血の付いたハサミが飛んできた。
「……陽太……君……?」
 恐る恐るゆっくり視線を移動させると、ベッドの上で必死に大雅の両手首を押さえつける陽太君の姿があった。二人の顔と服と手首とシーツに、そんなに多くはないが血液が飛び散っていた。
 私の呼吸が、少しずつ苦しくなって来たのを感じる。同時に怖くなって、私は動くことも発声する事も出来なかった。
「大雅さん、魔夜さん帰って来ましたよ!」
 半ば自棄糞気味に叫んだ陽太君の声に、私ははっと我に返った。同時に大雅の力も抜けたようで、陽太君の手が離れ、彼もその場にどっと腰を下ろした。
「魔夜さん、大雅さんに怪我はないです。揉み合ってる時に、俺、ちょっと切っちゃいました。驚かして、すいません」
 痛そうに顰めた顔に無理矢理笑顔を作って、陽太君はそう笑ってくれた。
「直ぐに、手当するから!」
 今度は、そう言い終わるのが早いか否かで走り出そうとした私を、陽太君が呼び止めた。
「魔夜さん、俺より先に大雅さんを」
 彼は、近くにあったテッシュで患部を抑えながら「水道借りますね」と、部屋を出て行った。
「大雅」
 私は、彼の顔やら手やらに飛び散った血液をテッシュで拭き取ってやりながら、声を掛けてみた。少しずつだけれど、正気を取り戻した大雅の目から涙が溢れて来た。
「……俺……」
「落ち着いたなら、良かった。陽太君、見てくるから少し待ってて」
 松野さんが言っていた通り、大雅は酷く落ち込んでいた。
「魔夜さん、もう良いんですか?」
 私は陽太君に、タオルを差し出した。彼が受け取った後、救急箱を取り出しながら答えた。
「取り敢えず、落ち着いたみたいだから。それより、ごめんね」
「何がですか?」
 陽太君の切ったと思われる左手を取って診ると、親指と人差し指の間の付け根部分と小指下の辺りに、それぞれ二~三センチ程度の切り傷があった。じんわり血が滲み出してきたので、滅菌済みコットンを消毒液に浸し、それで患部の血液を拭き取った。その後、ガーゼで保護し、包帯を巻きつけた。
「大雅さんの事なら、魔夜さんが謝る必要はないですよ」
 私の事を、見透かしたかの様に彼がそう呟いた。
「大雅さん、何があったんでしょうね。本当に愛してた人に再会したのなら、あんなに取り乱す事ないと思う」
「…………」
 陽太君の手が、私の肩に触れた。
「魔夜さんが、気負う必要はないんです。本当の夫婦じゃないんだし、なんなら俺からケンさんに話して、上に話し付けましょうか?」
 松野さんに続いて、陽太君の気遣いにも、私の心は救われた気がした。
「……今は、まだ大丈夫。もう無理だって思ったら、真っ先に連絡するから」
 陽太君が、いつもの笑顔になる。
「わかりました! じゃぁ、俺行くんで」
「うん、ありがとう」

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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