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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第一章「いざ、雪銀館へ」 2

   

長野県で開催される有識者会議へと向かう蒼野たち。
乗り物酔いがあり、電車の苦手な蒼野は、編集の双馬十萌(そうま・ともえ)から「酔い止め」を渡されるが……。
蒼野は無事に長野県へ着けるのか?

 

 
 JR横浜駅横浜線改札口前で双馬さんがふくれた顔で待っていた。
 ギリギリセーフだよね? 何でそんな顔しているの?
「いやあ、双馬さん、ごめん。さっきは危ないところをありがとう」
 一応、礼を言う。
「いいですよ、それぐらい。いつものことですから」
 双馬十萌は仕事上で俺の良き相棒。十文字出版社の編集部に就職してからあまり年数が経っていないそうだが、よく気が利く敏腕編集者。年は俺より少し若いぐらいだろう。背丈はかなり低め。中学生に見えることもある。チャームポイントはツインテールのルックス。髪は鴉のように真っ黒。性格はツンデレなところがありやや短気。グレーの長袖ワンピースに純白のコートを羽織り、黒のニーソックスに黒い革のブーツを履いている。小さい旅行カバンを右手に引き、左手にモノトーンのチェックのハンドバッグを持っている。白黒のコントラストがよく似合う。化粧気はあまりなく、薄化粧。
「先生、何じろじろ見ているんですか? いやらしいですよ?」
 俺は眼鏡をかけ直して微笑んだ。
「ハハハ……。ちょっとした紹介文を考えていたんだよ。さあ、雪銀館へ急ごう!」
 横浜駅からは、緑と銀のストライプが入っている電車に乗った。JR八王子駅まで約一時間。ちなみに俺は乗り物に弱いが、電車が混んでいたので、リュックサックから酔い止めを取り出すどころではなかった。まあ、気持ち悪くはなるけれど、吐き気が強いほど乗り物は弱くはないし、と我慢。ここまでは日常の乗車だね。特記することなし。
 それから八王子駅で長野県小淵沢駅まで行くためにJR特急スーパーあずさに乗り換えた。双馬さんが俺に特急の指定席の券をくれた。いつもながら気が利くね。ありがとう。 
 俺は朝から何も食べていないことを思い出し、八王子駅で急いで駅弁を買った。まあ、駅弁と言っても東京だから珍しいものはないけれど。地方の方がいいものあるよね。でも食べないよりはマシだ。俺はとんかつ弁当を選んだ。
 スーパーあずさは青と白のストライプが入った愛嬌のある丸顔の特急だ。特急の先頭の顔部分に「スーパーあずさ」と赤い文字が刻まれている。スーパーあずさは、丸くて白いライトを照らしながら、クラクションを鳴らし、猛スピードで、俺たちの前に到着した。
 特急に乗り込むと、俺たちは指定席に向かい、荷物を下ろした。冬休みのシーズンは再来週ぐらいからだろう。まあまあ混んでいた。でも指定席だから必ず座れるけれどね。
 俺たちは二人がけの席に腰を下ろした。俺が窓側で双馬さんが通路側。
 俺は窓側のシャッターを開け、景色を見られるようにした。さっきも言ったが、俺は乗り物に弱い。電車や飛行機などで移動するときは本を読むことや仕事をすることができない。だから窓を見ながら小説のネタを考えたりしている。
 リュックサックを漁りながら、酔い止めを探した。あれ、ないぞ。どこにもない。ああ、さっき急いでいたから、忘れてきたんだ。今からとんかつを食べるから、酔い止めないと、吐いたとき困るよな。
「あのさ、双馬さん。酔い止め持ってない?」
 双馬さんはハンドバッグを漁りながら、小瓶を取り出した。丸くて黒い錠剤を三錠くれた。
「はい、酔い止め。もう、乗り物に弱いんだから、ちゃんと持ってきてくださいよ」
「うん。すまないね。ありがとう」
 俺は双馬さんがくれた酔い止めをミネラルウォーターで飲み下した。どうやら強めの酔い止めらしい。口の中に強い苦味と匂いが広がった。良薬は口に苦いって言うしね。よし、これで乗り物酔いは大丈夫だ。さて、腹が減ったし、とんかつでも食べよう。

 約三十分後……。

 何か様子がおかしい。気持ち悪くて堪らない。酔い止め飲んだはずだよな?
 俺はいつも以上に強い酔い、そして吐き気を感じて、トイレへ向かった。
「ゲロゲロゲロ……オェェェ…………」
 俺はさっき食べたものを一気に吐き戻し、フラフラしながら座席に戻った。
「先生、大丈夫ですか?」
「いや、だめだ……」
 俺は幽霊のように真っ青だった。なんで、こうなったんだ? まさか……。
「双馬さん、さっきの酔い止め、何て薬?」
 双馬さんは嬉しそうに笑顔で返した。
「正露丸です!」
 え? 今、何て言った? 正露丸? 正露丸って、あれだよな? 腹を壊したときに飲むやつだよな? 決して酔い止めではないよな? そういえば、さっきの錠剤、丸くて黒かったよな? 変に苦味と匂いも強かったし。
「双馬さん、わざと?」
「いえ、いつもうちではそうしていますよ」
 本気でこういうことやるから、この人は恐い……。

 

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