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ショート・ショート

違法ゼロ上司

   

須藤 準は、過去に職場で殴られた経験から、パワハラや体罰が横行する職場には入りたくないと思っていた。しかし、どこがホワイト体質な企業なのか分からず、なかなか職に就く勇気が持てないでいた。
 
ある日、須藤の家の郵便受けに、一通の手紙が届いた。それは「決して上司が違法、犯罪行為をしない」ことが明記されている会社の求人だった。

半信半疑で面接に行ってみると、面接官の男性は、破格の給与条件に加え、「もし上司があなたに犯罪をしたら、一億でも十億でも差し上げましょう」とまで言い切った。

これだったら絶対に勤まりそうだと、須藤は勢い込んで会社に向かう車に乗ったのだが……

 

「まったく、やってられねえよな」
 須藤 準は、持っていた求人広告を放り投げ、出しっ放しの布団に寝転がった。
 景気がまずまずとは言え、時期的に穴埋め的な求人なわけで、なかなかいい条件には巡り合えない。
 大体が便利に使えるバイトの募集で、でなければもっと使い捨ての雰囲気がある短期の仕事だ。
 学歴も職歴もない須藤の立場では贅沢は言っていられないのかも知れないが、腰を上げる気にもなれないのも事実だ。
「ただ、焦って前の職場みてえなことになるのだけは嫌だからな」
 だが、貯金が二十万を切り、賃貸暮らしに不安を覚えつつも須藤が働きに出ていないのには、給料とは別の理由があった。
 入る職場で必ず上司と揉めてしまうのだ。
 人当たりが良くない上に空気も読めず、しかも生理的に上の人間につっかかる性分となれば確かにそれも当然かも知れない。
 そして、前働いていたノルマがきつい訪問販売の職場では、上司にぶん殴られる事態に至った。
 須藤が上司への反抗の意思表示も兼ねて板状の飴を口に放り込んだことと、上司が重量挙げのエキスパートだったことが重なり、最悪の結果を招いた。
 バラバラに砕け散った飴が口の中に突き刺さり、前々からぐらついていた奥歯が吹き飛んだ。
 当然須藤は大量の血を吐き出しながらのたうつ結果となり、オフィスは鮮血で染まった。
 いくらブラックな企業で、殴られた側にも原因があるとは言え、ここまでのことになったら会社側も本気で動かざるを得ない。
 須藤は口止めを兼ねた慰謝料百万円を治療費とは別に手に入れ、会社都合の退社ということで、後々への展望もしっかり整えられた。
 だから特に須藤には不満はないのだが、もちろんまたぶん殴られるのはごめんだし、手を出させるほどにキレさせてしまう自分の気性にも不信感がある。
 そんなわけで、須藤はもう半年もブラブラと無為の日々を過ごす形になっている。

 

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