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SF・ファンタジー・ホラー

幻幽綺譚<10> 墓守

   

 誠実に自分の責務を果たし続ける、愚直ともいえる人間。こういう頼もしい人物が、最近はいなくなりました。世も末ですな。
 もし幻幽な世界にもいなくなれば、もう、本当にこの世も終わりかもしれません。

 

 私がその男に、最初に会ったのは、小学校一年生の時であった。
 田舎の広大な墓地で迷子になった時のことである。
 どういうわけか、埋葬をしている大人達と離れてしまい、墓地の中で独りぼっちになってしまったのだ。
 広い墓地は迷路のようであった。
 墓石は、林のように視界を遮っている。
 死者の眠る場所に、只独り……。
 子供の私にとっては、とてつもない恐怖であった。
 その時、目の前に、男が現れたのである。
 大男であり、髪の毛が肩まで垂れ下がっている。
 男は、私を見下ろした。
 男の顔は、異様に大きく、両目の間隔が広く、瞳がずれている。
 私の恐怖は頂点に達した。
 声も出ない。
「坊ちゃん、さ、こちらです」
 男は、腕を伸ばすと、私の手を握った。
 そして、私を引きずるようにして、歩き出した。
 私の目の前には、男の太い腕があった。
 その腕は、黒い毛に覆われている。
 小学生の私は、声もなく歩いていた。
 恐怖の限界を超えていたのだ。
 男は、私を大人達のいる所まで連れて行った。
 母の姿を見つけた――。
 次の日の夜明けになるまで、母の胸にしがみついて泣き続けたのを覚えている。

 その次に本家の墓地へ行ったのは、中学生になった時であった。
 大男の墓守に再会した。
 髪の毛は肩まで垂れて、両腕は黒い毛に覆われている。
 人の入らない深山で狩猟をしている山男、という感じの風貌であった。
 本家の長老や寺の住職の指図に従い、愚直に埋葬の世話をしている。
 愚直、そうなのだ。
 奇妙に両目の間隔が広く、瞳は斜視である。
 私は、その墓守の男は知恵遅れなのであろう、と思った。
 ただただ、言われた通りのことを愚直に実行するだけ――。
 中学生の私に対しても、「坊ちゃん、失礼いたします」と、丁寧すぎる敬語を使っているのだ――。
 尋常ではない。
 どこか、頭のネジが緩んでいるのではないか、と思ったのである。
 もちろん、こう思ったことを口に出すのは憚れることであった。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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