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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第一章「いざ、雪銀館へ」 3

   

色々あったが、ともかく、蒼野たちは目的地である長野県の雪銀館(せつぎんかん)へたどり着けたようだ……。
ひっそりと聳(そび)え立つ雪銀館とその主らが蒼野たちを出迎えてくれた。
事件は始まろうとしているのだろうか?

 

 
 約二十分後……。

 俺はなぜ、登山をしているんだろう、と不思議に思いながら、雪景色の山道を歩いていた。歩けなくなるほどの雪が降り積もっていないのがせめてもの救いだろう。延々と同じような景色が続く冬の枯れた山道を二十分も歩いたところで、平野に出た。
 平野の百メートルぐらい先に、白亜の西洋館が見えた。
 あれが、雪銀館か。
 西洋館に近づこうとしたとき、駐車場からクラクションが聞こえた。
 駐車場には車が六台ほど停まっていた。ロールスロイス、ベンツ、BMWなど高級車が目についた。中にはアルト、ジープ、ミニクーパーもある。観賞用と乗用に分けているのだろうか。
 ここからロープウェイまでたいして距離はないのに、何に使うのだろう。
 六台のどれかと探していたら、そのうちの一台から声が聞こえてきた。
「蒼野君に双馬さんじゃないか。待ちくたびれたよ。遅いよ、君たち」
 そう声をかけてきたのは、SUZUKIの白いアルトの助手席に乗った大江戸正宗(おおえど・まさむね)だった。いかにも偉大なる小説家らしい恰幅のよい五十代の紳士は、群青色の着流し姿でそこにいた。
 運転席には、六十代ぐらいの細身の老紳士が乗っていた。この男は白いワイシャツ除くと全身真っ黒のスーツ姿で白髪頭に白髭だった。
「はじめまして。蒼野先生に双馬様。雪銀館執事の黒井召ノ介(くろい・しょうのすけ)と申します。他のお客様は既におそろいです。蒼野先生方の到着に遅延があるのかと思いまして、ロープウェイ乗り場まで車でお迎えにあがろうかと思っていたところでした」
「本当に申し訳ありません。うちの先生がぐずぐずしていたせいで、こんな時間にまでなってしまって。なんとお詫びをすればよいのやら……」
 双馬さんは弁解していたが、俺のせいにしていた。
 俺が悪いのか?
 失礼しました、と俺もとりあえず謝っておいた。
 俺はポケットから銀の懐中時計を取り出して時刻を確認した。
 午後二時五分か。
 何気なく周囲を見渡したとき、雪銀館の頂点にある大時計が俺の視界に入った。
 時計は午後二時を指していた。
 この時計、五分遅れているじゃん。
 どうしようか。大江戸先生たちに知らせた方がいいかな。
 でも、自慢の館の大時計の時間が遅れていますよ、なんてことを、他人から、しかも新人から指摘されるのって、けっこう恥ずかしいよね。
 よし、黙っておこう。
 俺たちは館の内部に招き入れられた。
 入口をくぐるとき、若干の違和感があった。
 あれ、ここのアーチ状の入口、屋根がないよ。
 足下を見下げるとさらに奇妙なものがあった。
 玄関入口の大理石のタイルには、魔法陣が描かれていた。霊魂が錯綜した古代魔術の真紅色の紋章のようだ。もしかすると、引き返すことができない異世界の入口まで来てしまったのか、と妙な悪寒を感じた。

 

(続く)

 

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