幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

RAT <十一>

   

 渋滞に巻き込まれ、やっとの事で京子の働くペットショップに着いた。するとあろう事か、京子は色黒のプレイボーイと楽しく会話していた。京子を奪取するべく一芝居を打つ事にした。

 

 
 京子のバイト先に着いたのは、四時をまわっていた。あの後、信じられない事に、信じられない様な渋滞に巻き込まれたのだ。渋滞の理由? そんなもの知った事ではない。俺は車の中で走り回りたい位に焦っていた。電車に乗っていて、遅刻しそうになると、先頭車両まで走りたくなる。そうする事によって、少しでも前に進んでいる気になるからだ。でもそんなものはただの思い込みに過ぎない。先頭車両まで走ったって、電車という箱からは出られないのだから。
 やっとの事で渋滞から逃れられた俺は、急いでペットショップへ駆け込んだ。レジの横にある犬の玩具などが並べられている所。そこに京子の姿があった。
 京子はお客と話をしている様で、その話が終わるまで無言で待っていようと思った。
 話をしている相手は、色黒のいかにもプレイボーイ風の男だった。どんな話をしているのかとても気になる。俺の京子をどうしようってんだ! 少し側によって聞き耳をたてた。

「えぇー、そうなんですか? 私も観たいなぁ、その映画。前から気になってたんです」
「だったらさぁ、今度の日曜日に観に行こうぜ。俺、一回観ちゃったけど君とならもう一度観たいなぁ。そんくれぇ面白い映画だったぜ」
「あっ、でも日曜は用があるんです。すみませんが又の機会に……」
「えぇー、用事かよぉ。何とかならねぇの?」
 プレイボーイ風の男は諦めが悪いようで、粘着テープの残りカスの様に京子にベタベタしてやがる。勿論、気分は良くない。それに京子は困っている様だ。よしここは一芝居打ってやろう。
「よう、京子。待たせたな! さぁ約束通り、夜景の見えるレストランでディナーと行こうぜ」
 京子と色黒の男は、同時に俺の方向に振り返った。京子の顔には安堵の表情と、遅刻した俺への怒りの表情が入り混じっていた。色黒の男は、「なんだよ! 男がいんのかよ!」といった感じで、大袈裟に肩を振り無言で店を出て行った。
 京子の側によると、俺は謝罪した。予想よりも取り調べが長かった事と、渋滞が重なった事を説明した。京子は、フーンっといったように、俺から顔を背けて視線を落とした。
「本当にゴメン! さぁ、帰ろう」
「あーあ。あの人とのお話楽しかったのになぁ~」
 京子は上目遣いで俺をみた。クッソー! 俺なんかよりあんな色黒がタイプなのかよ。なんだかやるせなくなった俺は、ガクンと肩の力が抜けた。その様子をちらっと横目で見ると、急にこちらに振り返り、腕を後ろで組んでニヤリと含み笑いをした。
「でぇ~? 連れてってくれるの? ”夜景の見えるレストラン”」

 これはまた一杯くわされた。京子の瞳はキラキラと輝いている。その輝きが俺を眩しく照りつける……行こうか、夜景の見えるレストランへ……

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品