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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season3-1

   

 かっこつけの男が氷室探偵事務所へ訪れた。
 国寺 清文が依頼人だ。渋谷駅の地下開発プロジェクトチームのひとり。

 そんな彼の依頼は異質そのものだった。

 週末の出来事。
 金曜の夜から月曜朝までの記憶がない、それを調べてほしいというのが依頼だ。

”誘拐され、丸二日間の記憶がない”。

 かつてない奇妙な依頼だった。そこで抜擢された担当探偵は、雲田 修一(クモダ シュウイチ・35歳)だった。

 佐伯はパートナーの相談を小柴に持ちかける。すると御影が選ばれた。

 初めて森谷以外で組むことになった御影。

 それにこの依頼はランクB。それだけも胸躍る御影だったが、協調性もなく、どこか陰湿な性格をしている雲田に、好印象はもてなかった。

 一番最初に浮かんだのは、この依頼は失敗する。

 足並み揃わない出発に、御影の不安は隠し切れなかった。

 

 仕立てのいいスーツすがたの男と佐伯事務員は対面していた。

 佐伯が本日はどのようなご用件でしょうか、と尋ねたところ、突拍子もないことをいった。

「わたし、誘拐されたんです」依頼人の男はいった。

 我が耳を疑うかのように佐伯は聞き返す。「だれがですって?」

「わたしです。いや俺です!」
 誘拐された者が、相談しにくるはずもない。そう推察したようで、主張するように固有名詞を言い換えた。

「私の目の前に座っている、あなたが誘拐された?」佐伯は丁寧にいった。

「はい」男は満面の笑顔を浮かべた。

「それなら、警察に相談されては?」

「しました」

「なら、なぜ、こちらに」目を細め疑わしそうに依頼人をみる佐伯。

「それが…」依頼人は、淡々と話をはじめた。

 佐伯は世間話でも聞くような気楽な姿勢で接客する。探偵の助手でもある勘が、この話は長くなりそうなのを直感した。
 そういうタイプの人間が訪問しているのも初見でわかっていた。

「誘拐事件発生に気づいたのは、昨日月曜の朝、朝食を食べているときでした」男はいった。
「ニュースを見ていると、平日の朝やっているニュース番組だったんです」

「それはなんの番組ですか?」

「モーニングニュースです」

「たしかに平日の朝にやっている番組ですね」
 佐伯は自分もその番組をみているからわかった。土日は同じ時間帯に別の番組、キャストで放送されている。

「はい」

「それで、誘拐されたのはいつ?」

「金曜の夜、わたしがベッドに寝ついたあとだと思います」

「思う?」佐伯は疑問符を投げる。「どういうことですか?」

「金曜の夜寝ついてから、次にわたしが気づいたのが月曜の朝だったからです。それまでの記憶がないんです。丸二日、時間が飛んでしまったんですよ」

 佐伯はまじめにこの依頼人の話を受けるべきか悩んだ。
「それがどうして誘拐だと?」

「この二日間の間、つまり土日ですが、俺は両親に電話して、そしたら息子を誘拐したという電話があった──」

”息子を誘拐した、返してほしくば身代金1000万円用意しろ、さもなくば息子との再会は望めない。冥界に埋もれて奈落の底へ落ちるだろう”。

 変声器をつかったくぐもったような声だったという。

「そういうことですか」だが、まだ佐伯は点と点がつながっていない。
「ひとつききますが、もう取り引きをすまれてあなたは解放されたことになるんですね?」

「とりあえずは、だが、身代金が返ってきていないし、なんといっても、俺の記憶がないのが気持ちがわるい。俺の二日間は、どこでなにをしていたか、それがしりたい。俺はなぜ、丸二日も記憶がないのか、どのようにしてそんなことを可能にしたのか? 両親も困惑している。けっきょく騙された感が否めない。父と母は喧嘩しているしまつだ。もっとも一方的に怒鳴っているのは父ですが──」声質が荒々しくなった。

「わ、わかりました」佐伯は圧倒されていた。「それではもう少し、伺いますが、いいですか?」

「はい、もちろん」男は冷静さを取り戻した。

「お名前を──」佐伯はいった。
 依頼内容から依頼を受けるかどうか判断する。窓口相談料は無料だが、そのあと依頼を受けて書類に詳細を記載し、依頼人が捺印した時点で契約締結となる。

 受理されたら契約期間を定める。依頼内容から探偵事務所は最低一週間を提案する。その一週間で結果がでなくても、そこまでのリサーチ費用と調査内容を報告する。それで追加料を必要日数分支払うことで延長が可能となる。
 すべて依頼人と相談して決める。

 だいたいどの依頼ランクも一週間の初期調査期間を条件として、まとめて依頼料をいただく。三日で調査の結果が出た場合は日割りで計算され、必要経費をいただき、残りは返金するシステムだ。

 あくどい探偵社は、これをまとめて貰い返金せず、たいした調査もせずに適当に結果を報告するところもある。
 氷室探偵事務所はメディアに露出し名と顔が知れ渡っている。そしてその実力と活躍ぶりから警察にも信頼のある探偵事務所だ。

 全国展開していないことが残念ではあるが、理由がひとつある。

 氷室探偵は一人しかいないからだ。

 

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