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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第二章「雪銀館到着、そして」 1の2

   2015年10月2日  

食堂へ行くと、夕食準備中の大江戸正宗の妻・小雨(こさめ)とも出会った。
倉庫も何やら充実しているようだ……。
防弾加工の大江戸の自室、大時計室、会議室、と続々と案内された。

 

大江戸先生は俺たちを隣の食堂に案内してくれた。
食堂にはアーチ状の扉から入った。クラシックな高級ダイニングバーのような雰囲気を醸し出す落ち着いた場所だった。バーでお馴染みのカウンターまであり、酒の類も充実していることが窺える。今日はこれからパーティを行なうせいか、小さなラウンドテーブルが幾つも並べられていた。大江戸先生は、ワシは酒が大好物でね、と自慢げにもらした。
食堂の奥で食材の整理をしている人がいた。小柄で髪を束ねていて、品のある赤紫系の色が混合したセーターに同じような色のロングスカートを穿いている女性がいた。化粧はかなり厚めだ。この人も年は大江戸先生と同じぐらいだろうか。
「こちらがワシの家内の大江戸小雨(おおえど・こさめ)だよ。編集者をしておるよ。今はワシの専属編集者だ」
その女性は大江戸先生の奥さんだった。俺と双馬さんはその女性に簡単に自己紹介をして、挨拶をした。
「今日の夕食はパーティですから、久しぶりに街に行って奮発して食材を買ってきましたよ。今日は腕によりをかけて料理を作りますので、楽しみにしていてくださいね」
家内は雪銀館の料理を担当しているんだよ、と大江戸先生は教えてくれた。黒井さんの仕事は客が来たときの案内の他に庭師や掃除係もやっているらしい。じゃあ、大江戸先生は何をやっているんですか、と聞きたかったが聞けなかった。たぶん、聞いたところで、ワシは遊び係をやっているんだよ、と返してきそうだった。
「奥様、お客様方の館案内が終わりましたら、私も料理を手伝いますので、何なりとお申し付けください」
黒井さんがそう言って、奥から彼女が、はあい、と答えた。黒井さんって、大江戸先生と違って偉いね、と思った。

* * *

 大江戸先生は食堂の隣の飲食料倉庫室に案内してくれた。
倉庫は寒くて暗くて、じめじめしていた。
扉から入って右側の壁にスイッチがあった。大江戸先生がそれを押すと辺りが明るくなった。
倉庫も見渡す限り、主にワイン倉で満たされている。ワインが置かれていないところには、肉、魚、野菜、果物、米、小麦類、インスタント食品に缶詰、ソフトドリンクにお茶類など様々な飲食料が目白押しだった。
どうですかな、ワシのワインコレクションは、と、大江戸先生はワイン倉を指しながらご満悦だった。

* * *

 倉庫から出て、突き当たり進んだところで右棟に出た。こちらも壁沿いには客室が三つあり、反対側には先ほどの先生の部屋と中庭に向かうガラス窓がある。ここから向かいまして、最初の部屋が奥様の部屋、隣が執事室、そのさらに隣が執事倉庫室になります、と黒井さんが教えてくれた。でも行ってもたいして見るものもなく面白くないので、と言われて、そこには入らなかった。
「ところで、大江戸先生。先ほどからあちらの中庭に見える部屋の意味はどういうことですか」
俺のその質問に待っていましたとばかり、大江戸先生は嬉しそうだった。
「ワハハ、蒼野君。よくぞ聞いてくれた。あの中庭の離れにあるワシの部屋は、通称、密室殺人の間というんだよ。考えても見てくれ。もし、今、雪が降って積もったとしよう。中庭にある芝生は雪で覆われ、さらにもしそこに誰かが踏み込んだら足跡を残してしまう。そんな中、あの部屋で殺人が起こったとすれば、犯人は殺人トリックを考えざるを得なくなる。そう、足跡のない雪密室を作らなければならなくなるんだよ。考えるだけでぞくぞくしないか」
いや、全然ぞくぞくなんかしない、と思った。だけれど一応相手が目上だったので、そうですよねえ、ぞくぞくして堪りませんよね、探偵小説家のロマンですよね、と俺はわざとらしく応対。双馬さんも作り笑いをしているように見えた。
でも中には入れてくれなかった。
現在、ある仕事に取り組んでいて中が散らかっているから、中まで見せることはできないんだよ、と先生は非常に残念そうである。俺は正直どうでもよかった。
大江戸先生はガラス窓をコンコンと叩きながら嬉しそうにしていた。
「そうそう。このガラス窓は防音で防弾だ。賊が来ても対応できるようになっておるよ。ワハハ」
え? 防音ガラスって音がうるさくて近隣住民に迷惑をかけるといけないから張るものでしょう? この近くに家ってあった? 防弾ガラスってピストルの弾が飛んできても割れないやつでしょう? ここで銃撃戦でもやるの? 聞くのが恐くて聞けなかった。
俺たちは玄関の方まで歩いて行き、右側の階段を登っていった。西洋建築というものはだね、階段の造りをいかに造りこんでいるのかというのもまた見ものなんだよ、と大江戸先生はさらに自慢してきた。階段は暗黒色の大理石が埋め込まれている高価な造りだった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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