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ショート・ショート

好都合な社員派遣

   

窓際部署に追いやられた木内 寿伸はつなぎの仕事を得るべく、アングラ系求人サイトにアクセスしていた。

色々な怪しい仕事がある中、「好都合な社員派遣します」という内容の書き込みを見つけた木内は、ワラにもすがる思いで担当者と会い、条件を提示した。

すると翌日、条件に合致した凄まじく有能な人間が入ってきた。

彼のおかげで部署の存続が成り立ったものの、平穏になってみると優秀な社員と比較される対象になったことで、木内は部署の存続とは関係なく、再びリストラの候補になってしまう。

そこで木内はまた「好都合社員派遣」に別の依頼をしようと試みる……

 

「ふう……」
 関東近郊某所に存在する、とある中堅企業の片隅で、木内 寿伸はため息をついた。
 室内の至る所で同じような嘆息が漏れている。
 部屋の中は静まり返っている。
 電話が鳴ることもなければ、タイピングの音も響かない。
 社則にのっとり、重要なデータを紙に残すためのプリンターには、うっすらほこりが積もっている。
 要するにこの部署には、消化すべき仕事がないのだ。
 かと言って木内は、隣りの同僚と雑談する気分にはなれなかった。
 口を開けば不景気な話になると分かり切っていたからだ。
 もっとも木内の心境は、ここ第二営業部に属する男女に共通したものでもあり、だからこそ皆、ほとんど口を開かない。
(まったく、辛気臭いったらないぜ)
 木内は心中でぼやきつつ、持っていたスマホで単語検索をかけた。
 お目当ては求人情報サイトである。
 ちらりと周囲を見渡すと、部員のうち五、六人は堂々とスマホをいじっているようだ。目的は多分木内と同じだろうが、そのことをたしなめる同僚はいない。
 一応、会社への義理で就業中は行動を起こさない多くの部員も、まったく仕事の疲れを残さずに帰宅した後は、長時間求人サイトに居続けるような生活を送っているのだ。
 少なくとも、上層部から高圧的に突き付けられたノルマ、「来月までに商品を三億売り上げろ」を達成できるなどとは誰も思っていない。
「どうするんすか、これ。正直タダでもきついっすよ。会社から家まで帰るのも辛いって言うか」
「正直な感想を言うな。皆思ってても口にしてねえんだからよ」
 後輩の軽口に口ではたしなめ、態度では肯定しつつ、木内は体を覆っている黒いシャツとズボンを見やった。
 黒と言ってもクラブの店員が着ている背広のような艶やかなものではなく、すすけた布に墨汁を垂らしたようなボロボロの生地だ。
 衣服に使用するような感じの布ではないが、その質感は必然的なものだ。
 何故ならこの服は、一度「燃やされた」上に「水で浸された」ものだからである。

 

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