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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第二章「雪銀館到着、そして」 2の1

   

いよいよ会議前日のパーティが始まった。
蒼野は双馬に起こされて、食堂へ向かう。
豪勢な料理が勢ぞろいしていた。
だが、蒼野はパーティでさっそくやらかすのだった……。
そして、暖房も調子が良くないようだ……。

 

 
 コンコンとノックがして、黒井さんの声が聞こえた。
「蒼野先生。ご夕食の時間でございます。皆様、お待ちしておりますので、食堂まで起こしくださいませんか」
「はい。今すぐに行きます」
 俺は寝ぼけながら返事をした。
 目覚まし時計を手に取った。
 午後六時。
 さっきまで館の見学をしていて、その後に体調があまり良くないので部屋に戻って寝ていたことを思い出した。
 館に着いたのは午後二時五分だった。それから一時間弱、館の見学をしていたのだろう。ということは、午後三時から午後六時まで三時間寝ていたことになる。昼寝は体によいと聞く。寝不足のときに昼寝をすると、その眠りの深さで体調が良くなるという話を聞いたことがある。
 とりあえず、全快したらしい。何の夢を見ていたかは覚えていないが、目覚めがすっきりしている。さあ、うだうだしていないで、食堂へ急ごう。

* * *

 俺が食堂に入ると既に全員揃っていた。気まずいな……。
「さて、これで全員揃いましたので、そろそろ始めさせてもらいます」
 大江戸先生が仕切りだした。
「本日から二日間続けて行なわれます、三文小説の今後について考える会を始めたいと思います。本日、集まってくださった有識者の皆さんはワシの長年の友人もおり、近年知り合った知人もおります。
 ご存知の通り、今日において、三文小説の進歩には目覚しいものがあり、世は未曾有の三文小説ブームという現状です。しかしこの現状がいつまでも続くとは思えませんし、やがて、三文小説とは何かという難題に向き合う日が来ることは火を見るよりも明らかです。我々は、一時のブームに流されることなく、すがることもなく、三文小説のあり方というものを根源から問う必要があります。そして三文小説のあるべき姿を世に普及させることが、小説家であるワシや隣接分野のクリエイターである皆様の使命だと思います。
 三文小説の明日について、みんなで知恵を出し合って、考えていこうではありませんか。三文小説の未来には輝かしい明日があることを信じて、乾杯しましょう!」
 カンパーイ。
 と、みんなでビールが注がれたコップを高くあげて叫んだ。
 へえ、大江戸先生って、いつもはふざけているように見えるけれど、やるときはちゃんとやる人なんだね。
 さらに先生は続けた。
「と、いう堅い話は明日やろう。今日は親睦を深めるための宴会にしよう。じゃあ、みんな、好き放題飲み食いしてくれ。ワハハ」
 やっぱり、こうなんだね。
 食堂のラウンドテーブルにはパーティ料理がぞくぞくと並べられている。
 決まった座席はなく、バイキング形式の立食パーティらしい。
 食堂のキッチンの方を見ると、奥さん、黒井さん、水波先生が料理を作ったり、運んだりしている。あれ? 水波先生もいるけれど、彼女は大江戸先生たちと付き合いが長いのかな?
「水波さん、ちょっとこれの味見をしてくれる?」
 と、奥さんに言われていたが、彼女は料理を運んでいる最中だった。
「すみません、蒼野先生。このプレートをそこのテーブルに置いてもらっていいですか?」
「ええ、お安い御用ですよ」
 と、俺がプレートを受け取ろうとしたそのときだった。
 ああ、やっちまったよ。
 プレートを派手にひっくり返してしまった。
 食堂の床は赤い液体が飛び散り牛肉が散乱。
 俺は貴重な肉料理をだめにしてしまった。
 とっさの出来事だったが、俺はみんなに悪いことをしたと思って、すみません、すみません、って謝った。
 さっきまで沸いていた食堂は一瞬にして凍っていた。
「ああ、本当に申し訳ありません。うちの先生、本当にまぬけなんで、いつもこんなことばかりするんです……」
 双馬さんは俺の保護者かのようにそう謝って、キッチンにまで雑巾を取りに行こうとした。
 水波先生が雑巾を持ってきて片そうとしてくれた。
 もちろん、俺が片したが。
「ワハハ、蒼野君。さっそくやってくれたじゃないか。君はいつもながらアッパレな男だ」
 大江戸先生がフォロー(?)してくれたお陰で、食堂に笑いが戻った。

 

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