幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode9

   

 玲奈と大雅の間にピリオドが打たる。
 そして、記憶を取り戻した大雅にとってつらい、聴取が始まった。

 本格、ミステリー!!
 44口径より、愛を込めて

 

 そう陽太君を見送ると、玲奈さんも私に気付いて会釈した。
 不満げな大雅に一言告げると、先日松野さんと対談した近くの喫茶店に彼女を案内した。
 左奥の壁際の席が空いていたので、そこに着席した。一番周りから見えにくく、話も聞かれにくいから。
 私がアイスココアを注文すると、玲奈さんはアイスティーを頼んだ。
 暫し、沈黙が続いていた。
 私が何から話を切り出そうか悩んでいると、先に玲奈さんが口を開いた。
「……爽介の……何ですか?」
「……妻……です」
 玲奈さんの顔が、苦悩に歪んだ。
 私は、正直に話すことにした。
「ご存知だと思いますが、私も爽介もコーラカル・アヂーン大量虐殺事件の唯一の生き残りです。厚生労働省の保護下で、事実を隠すために夫婦として共に生活しています。ですから、本当の夫婦ではありません」
 私の落とした視線に、玲奈さんの震えだした手が映った。
「……爽介は、私のことを本当に忘れてしまったんでしょうか? 私の渡したものを見ても、何も感じていませんでしたか?」
 彼女の質問に答える前に、今度は私が質問した。
「玲奈さん、でしたよね。玲奈さんと彼の関係は?」
「婚約者です」

『彼女は、俺を押し退けて、盾にするように突き飛ばすと、割れた窓から外に転がり出て……一度も振り向かずに、走って行った……』

 大雅の言葉が、頭を過ぎった。

「写真とストラップでしたね。ちゃんと見てましたよ」
 私が一つ目の質問に答えると、玲奈さんの顔が安心したように緩んだ。
「でも、事件のショックで……私達には記憶が無いんです」
 事切れたように、玲奈さんは泣き崩れた。
「ごめんなさい」
 私はそう呟くと、席を立った。
 本当の事など、言えるはずがない。
 玲奈さんに見捨てられて、心に深い傷を負った大雅の気持ちも解る。大雅を見捨てて、それでも愛する玲奈さんの気持ちも解る。
 私には、どちらも庇えないと思った。
 店の扉を開けると、大雅がカウンターに座ってモデルガン雑誌を読んでいた。
「ただいま。玲奈さん、そこの喫茶店にいるよ」
 大雅が固まった。
「少し、お話してたの。二人は婚約者だったのね。玲奈さん、まだ大雅の事、好きみたい」
 私は、店じまいを始めながら続けた。
「事件の後遺症で、記憶が無いって言っておいた。これっきりにするのも手だけど、多分、気持ちが上手く噛み合わなかっただけだと思うから。だから、ちゃんと話すのも自分の……大雅の為なんじゃないかな」
 少しの間を置いて、大雅が口を開いた。
「……玲奈と話して、もし俺があいつとヨリ戻ったら、俺は出て行くよ。そしたら、お前はどうする?」
「…………」
 そんな事、考えてもなかった。
 彼が「ごめん」と呟きながら、立ち上がった。
「そうね、それで大雅が幸せになるのなら構わないよ。最初っから、お互いを干渉し合う様な間柄でもないし」
 彼は、無言のまま店を出て行った。
 私は、店を片付けて家に戻った。溜まっていた使用済み銃と、モデルガンのメンテナンスを始めることにした。
 自分の部屋の作業台に、銃を並べた。
 銃の残弾を確認すると、スライドを後退させストップを抜き、スライドとフレームを別にする。細かい部品を順番にバラしていき、バレルリフレッシャーで掃除する。
 まぁ、いつもやっている言わば流れ作業といった感じなので、一丁終わらすのにさほど時間はかからない。
 二丁目のメンテナンスを終え、部屋を出ると真っ暗だった。暗所恐怖症の大雅を気遣って慌てて電気を付けると、急に不安が込み上げてきた。
 このまま独りになる事が、急に怖くなってきたのだ。
 ソファに座って、独り考えてみる。
 近すぎて気付かなかったのだけれど、多分私は大雅の事が好きなんだと思う。
 今まで何度も自分が出て行く事を考えたのも、強くなりたいと思ったのも、全て今日みたいな日が来るのを恐れていたからだと思う。
 自分から壊すならまだいい。卑怯だけど、自分が傷付くのが怖かったから。だから、玲奈さんが事件現場から必死で逃げて、それでも大雅にまだ未練があるとしても、私は彼女を卑怯だなんて言えない。人の心なんて、弱いものだ。皆何らかを犠牲に、自分を守っているのだから。
 呼吸が、苦しくなってきた。
 ここ最近は、発作にまで至ることはなかったのだけれど、今回ばかりは違うと解る。
 徐々に呼吸の苦しさが増し、冷や汗が吹き出してきた。目眩でソファの上に倒れ込む時、涙で滲んだ視界の向こう側に人影が見えた。
「魔夜」
 放置しておいても、死ぬことはない発作だ。症状を軽くする方法はあるけれど、名前を呼んだ主が私の身体に触れると、徐々に発作は落ち着きを取り戻してきた。
 呼吸が安定するまでの間、私は大雅の手の温もりを感じていた。
「なぁ、魔夜」
 私が聞いていなくても構わないといった様子で、彼は一人語りだす。
「やっぱり玲奈の事、許せなかった」
 どこかで、少し安心した自分がいた。
「……俺は……このままでいいや」
 ほんの数秒、大雅の額が私の額に合わせられた。彼は顔を上げると、ソファ横の小さなテーブルに置きっぱなしになっていた、写真とストラップをゴミ箱に入れた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド