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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <十六>

   

俺達はラットの訓練に勤しんでいた。ラットが会得した新しい芸に涙を堪えている時、予期せぬ訪問者が現れた。その訪問者とは……

 

 
 それから暫く経ったある日の事。俺と京子は昼間っからラットの訓練に勤しんでいた。
 中指を立ててFUCK YOUをやらせようとしていたのだ。しかしラットの指は四本。後ろに一本。どれが中指だか分かったもんじゃない。
 ラットは必死に俺たちの教えを無下にしまいと、取りあえず真ん中辺りの指を立たせる事ができた。その成長っぷりに危うく涙を零しかけていたのだが、誰かがインターホンを押す音に遮られてしまった。可愛い息子の成長に微笑ましいひと時を送っていたのに、何事だ! 
 受話器を取ると聞き覚えのある声がした。

「ハロー、あ・た・し・よ。マヤ」
 俺は受話器を手で押さえ京子を睨みつけた。
「おい。なんか生物学上で判定のつかない性別の奴が訳のわからない事を言ってるぞ……」
 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべた京子。
「マヤ来たんだ! 入れてあげなよ!」
「待て! なんでここが判ったんだ? まさか、京子……」
「だって、仲良くなりたいって言ってたでしょ?」
 悪魔ような微笑みだ。こんな顔をする女だったっけ? 俺は何処からともなく湧いて来るこの寒気は何なのだろうと考えた。仕方がない、入れてやるか。
 マンションの自動ドアの開くスイッチを押した。受話器から気持ちの悪い言葉が聞こえてきそうなので早めに受話器を戻した。暫くして玄関のチャイムが鳴り、俺は鍵を開けにフラフラと血の気の引いた蒼い顔でドアを開ける。

「キャァー、王子様直々にお出迎えだなんて。光栄!」
 そう言って、マヤは俺に抱きついて来た。女物の香水の匂いが嫌な程する。これはグッチのエンヴィーミーだろう。人より少し嗅覚が優れている俺には一嗅瞭然。俺の最も嫌いな匂いなのだ。
 俺は確かに言った。「俺も友達になりたいな、マヤと」あの時は雅夫の壮絶な物語に感化されたんだ。冷静に考えれば身の毛もよだつ話だ。「喰われちゃっても知らないからねぇ」京子のあの言葉は呪いだったのか?
「雅夫、じゃなくて。マヤ! いらっしゃい。今ねラットちゃんに芸を仕込んでたとこなの」
「ええぇ? ラットちゃんをゲイに仕込む……あたしに任してちょうだい!」
 おや? マヤは何か勘違いしているぞ。俺の可愛いラットをゲイにする訳にはいかない。何としても! かといって、雄だから京子に恋をして貰っても困る。
「うーむ」
「なに悩んでるのよ! 違うわよマヤ。お手とか、お座りとか。そういう芸よ。マヤとは違うんだから」
 するとマヤは俺の体を女の力とは思えない程の力で抱きしめ(いや、これは締め付けだ……)叫んだ。
「私はゲイじゃなくて、ニューハーフよぉぉぉぉ」
「力士か! お前は。もういいからいい加減放してくれよ。肋骨が、背骨がぁぁ」

 

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