幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ハートフル

黒いお星

   

首を絞められた事はあるだろうか。
無い方が良いに決まってる。
でも、私にはあるのだ。

首を絞められた時に「私」の目の前に現れる『黒い星』
その正体は一体、何なのだろうか。

黒い星をめぐる、うすぼんやりとした体験の記録。

 

 
 首を絞められた事があるだろうか。
 無い方が良いに決まっている。
 だが、私にはあるのだ。
 
 
 一回目は小学生の時。
 空気も白む冬の中頃の事だった。
 私の居た小学校の校庭の隅っこには、一本の木が植わっていた。
 木の品種など知った事ではないので、とにかく「木」である。
 この木、おそらく植えた人が素人だったのだろう。
 よりにもよって年中日陰の場所に据えられてしまっていて、この場所に何年も鎮座なすっているようだが、胴回りばかり太くて、背丈は大人より少し高いくらいしかない。
 よって、子供にとっては非常に登りやすい絶好の遊び場だった。
 その日も私と私の友達数人は、放課後、木登りに興じていた。
 ただ、この日の我々は木登りをすること以上に、
 
「高所から飛び降りること。」
 
 に、喜びと誇りを見出していた。
 理屈で説明出来ない興奮が小学生にだけ感じられたのである。
 そうこうしている内、一緒に木に登った友達が先に木の天辺から飛び降りた。
 地面に着地すると同時にゴロリと前転をしてみせる。
 何でも、昨夜にTVで見た映画の中で「アーノルド・シュワルツェネッガー」が、爆風で吹き飛ばされた後に、この前転を行ったらしい。
 彼はその行為にいたく感銘を受けたようで、今日はもう5、6回くらい「飛び降り前転」をしている。
 対する私は焦っていた。
 小学生としては友達に対抗しなければならない。
 「飛び降り前転」に匹敵する技を繰り出さねば。
 しかし、これは簡単な事ではなかった。
 何せ相手はハリウッド仕込みだ。
 焦りに焦った結果。
「きええ。」
 何も考えずに奇声をあげて飛び降りるしかなかった。
 そう、「何も考えず」に。
 良い結果になる訳がない。
 何も考えていなかったので、自分が乗っている枝の先に、身に着けているマフラーが引っかかっていた事に気付かなかったのだ。
 私の体の方は気付きもしない。お構いなしに飛び立つ。
 宙に浮いている間、
「着地してからはどうしようか。」
 などと、呑気に考えていた。
 しかし、というか当然に。
 
 
「ぐえ。」
 
 
 実際にそう発音した事を覚えている。
 何が起きたのか、皆目わからなかった。
 繰り返すが何も考えていなかったのだから。
 この一瞬が、
『息が出来ない。』
 という、二時間ドラマでしかお目にかかった事のない現象であると認識できたのは、これからずっと後の事だ。
 何故なら、この時の私は、狭くなっていく視界の中に、突如として点々と現れた『黒い星』。これが一体何であるかを考える事に夢中になっていたからである。
 
「まだ星が出る時間じゃないよな。」
 
 とか、
 
「どこかで見覚えのある星だ。」
 
 とか、
 目の前に広がる「黒い星」達をぼうっと考察しているだけだった。
 
 どすん。
 
 と、私の尻が地面に突撃したのは、その数秒後だ。
 実際は、もっと一瞬の出来事だったのだろうが、
 私にはその一瞬が、終ってみれば一瞬のようでもあり、その時にすれば永遠に感じていたのだ。
 尻から登ってくる激痛に身悶え、跳ねるように地面にのたうち回る。
 地面をゴロゴロと転がっていると、頭上に先ほどまで自分が居た枝が視界に入った。
 身に着けているマフラーと同じ色の毛糸が、ごっそりと枝先に引っかかっている。
 どうやら安物のマフラーだったことが幸いしたらしく、簡単に裂けてくれたようだ。
 宙吊りになっていたのは、ほんの一時的な出来事らしい。
 しかし、私はそのことよりも、友達が心配もせずゲラゲラ笑っていたことよりも、狭くなった視界が徐々に元の大きさに戻っていく中を、逃げ回るようにして消えていく黒い星の行方が気になっていた。
 後で聞いた話だが、マフラーが枝先に引っかかっていたのは偶然ではなく、先に跳んだ友達が故意に引っかけたらしい。
 つまり悪戯であって、事故では無かったのだ。
 だから、首を絞められたのはこれで「一回目」となる。

 

-ハートフル


コメントを残す

おすすめ作品

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】14

   2017/11/15