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迷い人に孫の手を2<5>

   

 日常は、止まる事なく続いていく。

 人が出会えば物語が始まる。人が接すれば想いが始まる。

 それに気付くか見逃すか。
 逃げるか、それともぶち当たるか。それは全て、あなた次第。

 あなたの物語に、少しばかりの彩りとなりますように、『迷い人に孫の手を2』を贈ります。

 最終話です。どうぞご賞味下さいませ。

 

 
 たたんっ……たたっ。

 徳野家を出た僕は、電車に揺られて馴染みの改札を出た。訪れた場所は、僕が務める会社である。

 鞄の中には財布と、今日手に入れたばかりの友人の名前が書かれたノートが入っている。出来立てほやほやの『フレンドノート』を手に、僕は建物を進み、目的のフロアに向かった。

 向かう先は自分の席ではなく、とある人物が居るであろう別の課だ。途中で休憩室を覗き、彼の居るはずのフロアに辿り着く。

 フロアの中を覗くと、探し人はそこに居た。しかもフロア内に見えるのは一人で、声は掛けやすかった。

「お疲れ、森」
「……柳瀬?」

 探し人である森健児に、僕は声を掛けた。

○○○

「どうしました、柳瀬。今日は休みじゃなかったんですか?」

 僕の唐突の声掛けに、やや驚いた様子の森が、それでも嫌がった風もなく笑みを見せてくれた。あからさまに嫌われている様子はなく、僕はまじまじと森を上から下まで見つめ直した。
 久々に、森健児をちゃんと見た。

「どうしました? また上司からの呼び出しですか?」
「いや……今日は別件」

 森の隣の席の椅子を引き、彼の傍に寄る。祝日なので森も私服だけれど、作業着は羽織っているあたり彼らしい。
 さて、来た。あとはどう切り出すかだ。電車の中からどう説明していいかを考えていたけれど、本人を目の前にするとしっくりこない。

 散々に考えた説明を、僕は諦めた。
 打算も何もあるか。直球、当たって砕けろ、だ。

「趣味を作ったんだ」
「それはまた……どんな?」
「友達をつくる、っていう趣味なんだけどね」

 僕の趣味報告に、森の表情が固まった。ハトが豆鉄砲を食ったような、という表現が正しい。そんな間抜けた森の面持ちに、僕こそが驚いた。

「また変わった趣味ですね」
「そうは言ってもノートに名前を書いて貰うだけなんだけどね」

 そこまで言って、僕は鞄から『フレンドノート』を取り出した。そこで動きが止まる。森と僕との目が合う。しまった、ここからどう言えばいいんだろう。少しのだんまりが続いて、互いの笑みが固まっている。
 しばらくの沈黙が、二人の間に漂っている。

「こういう、友達になって欲しいって言うのは、なかなか照れくさいね」
「ソーシャル系が出張っている最近は特にそうですね」

 森が僕を見たまま動かない。僕の台詞の、その続きを待たれているのは解っていた。でも何と言えばいいかが言葉にならない。森の仕事の邪魔をしているのは解っていた。
 でも次の言葉が出てこない。

「趣味の報告をしに来てくれた……って事ですかね?」
「いや、その先が重要だ。それを、言いに来た」

 森が僕を助けてくれている。たぶん僕の次の言葉を大よそ予想はしていて、でも違うかもしれないという気持ちが森から伺えた。駄目だ、何の為に来たんだ、僕は。
 覚悟は最初から決めている。不安が胸中を埋め尽くさんとして、拳を握ってそれを追い払う。

 言え。僕は腹に力を込めて、

「森に、僕と友達になって欲しくて、来た」

 静かに、問いではなく僕の気持ちとしてそれを言った。思い切りそのままに、言いたいままに言った。
 休日の会社で、仕事中だった森に、僕は自らの趣味を押し付けた。

「随分とストレートですね」
「他に言い方が見つからない。友達になりたいから、ノートに名前を書いて欲しい」

 まずはその気持ちを言えた。何とかこちらの言いたい事を伝えきり、僕は眼前の森に頭を下げた。

 対して森は、即座に了承をくれず、困っていた。

 

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