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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第三章「雪銀館の夜」 1の2

   

午後九時から午前五時頃まで応接間組はずっと応接間で退屈な時間を過ごしていた。
自室に仕事道具を取りに行くもの、食堂へ物を取りに行く者、トイレへ行く者……。
夜が更け、ひとりひとり、床に就いて行く。
蒼野は深夜の応接間の中で、ひとり、黙々と推理を組み立て直す……。

 

 
 午後九時……。

 午後八時から事件の整理を始め、弟切さんの意外な暴露があり、それからしばらく俺たちは誰も口を利かなかった。
 水波先生が意外にもしゃべりだした。
「あの……。こんなときにこういうことを言うのもあれですけれど……。部屋に戻って仕事道具を取ってきていいですか? 退屈で仕方がありませんので……」
 双馬さんも続いた。
「あ、じゃあ、ついでに私も行って来ていいですか?部屋から取ってきたいものがありますので」
 応接間を出てすぐに俺の部屋がある。双馬さんの部屋はその隣で、水波先生の部屋はさらにその隣だった。
「いいよ。じゃあ、念のため、俺も一緒について行くよ」
 古山警部と黒井さんもどうぞ、と促してくれた。
 弟切さんは相変わらずふて腐れていた。
 廊下に出ると、ヒヤリとした冷気を感じた。そういえば、館の暖房って壊れていたよな。
 それに、死霊の魔剣師というのも気味が悪い。
 宮沢先生は呪いだの何だのって騒いでいたが。本当に呪いだったとしたら、俺たちが既に皆殺しになっていてもおかしくはない気がするが。
 そんな幽霊だか魔術師だか分からない変な輩がこの館のどこかを俳諧していると思うと、余計に背筋が寒くなる。
 きっと、ファンタジーだ。死霊の魔剣師の存在自体が犯人の仕組んだトリックなんだ……。古典的ミステリを思い出せ。犯人が名乗っている怪人はトリックだ。探偵の論理的推理によって怪人の正体はやがて暴かれていくものだ……。
 二人はそれぞれの部屋に入って、俺は外で待つことにした。
 待つこと五分。
 二人はそれぞれの部屋から出てきた。水波先生は筆箱にスケッチブックを持っていた。双馬さんは本を持っていた。
「あ、双馬さん、その本って?」
「そうです。『死霊の魔剣師』です。実はここに来る日までに読んでおこうと思ったのですが、仕事が忙しくてなかなか読む時間がなくて……。でも今は事件解決の手がかりにならないかと思って読むんです」
 電車の中で彼女が真剣に読んでいた本の正体が分かった。やっぱり、真面目な人だね。
 俺たちは難なく応接間に戻れた。
 十分もしないうちに帰って来た俺たちを見て、古山警部と黒井さんはほっとしていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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