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ショート・ショート

いいこと貯金箱

   

大学生の佐々井 将は元々、思いやりのない人間として通ってたが、ここ数ヶ月間、金にならないボランティア活動や人助けに精を出していた。

彼の行動が変わったのは、「いいこと貯金箱」という代物を拾ってからだ。いくつかの条件をクリアした上で「いいこと」をすると、その内容に応じた多額の金が手に入るのである。

説明書通り、「いいこと」をしていくと、どんどん貯金箱に金が集まってくる。

いよいよ気を良くした佐々井はさらに積極的に行動していったのだが……

 

「お疲れっす。C区画の方はあらかた終わりましたよ、先生」
 佐々井 将が満面の笑みで大学構内の広場に入ってきた。彼が担いでいるゴミ袋は、他の学生の倍も膨れている。
「ほう、これは……」
 佐々井の担当教官にして、今日のイベント、「構内清掃」を企画した井口 雄一は驚いたように目を見開いた。
「さすがだね、佐々井君! 一番面倒だったところがすっかり片付いたよ」
「そうですね。大体のところは」
 佐々井がにこりと笑うと、既に広場に詰めていた同級生たちの間に、ほっとしたような空気が流れた。
 実際、広いこの大学の構内でゴミをくまなく探すのは面倒である。
 元々、特にやることがなかったために、学生の評価点の底上げと大学側に恩を売ることを狙って企画されたイベントなのだ。
 渡りに船と参加するのはいいとしても、できるだけ楽をしたいというのはごく自然な感情だろう。
「もう一周回ってきましょうか? ざっと見るぐらいだったら時間も大丈夫でしょう」
 だが佐々井はまったく笑顔を崩さず進み出た。
 担当教官はいよいよびっくりした表情を見せたが、すぐ首を横に振った。
「気持ちは嬉しいが、さすがにそういうわけにもいかないだろう。少し休んでいてくれれば……」
「いえいえ、大丈夫です。ちょうど帰る予定もありますんで、そのついでにササッと終わらせちゃいますよ。佐々井だけにね」
 佐々井が軽口を叩くと同級生たちが愛想笑いを返してくれた。どうやらギャグはともかくとして、申し出の方は歓迎されたらしい。
「そんじゃ、お先っ」
 佐々井はどこまでも爽やかな態度で立ち去っていった。

 

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