幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

プラチナ・フィンガー〜女王陛下のダイヤモンド〜<3>

   

 本文よりの抜粋:
「ケースからダイヤモンドを取り出すことは、不可能ですよ」
 大勢の人が、ロープ越しにダイヤモンドを見て、溜め息をついていた。

 

 警備部長の有馬剛史が用意した高橋美由紀の部屋は八階であった。
 展覧会会場の五階と、中央警備室の十三階のちょうど真ん中あたり、という配慮である。
 高橋美由紀は、部屋へ入ると、先ず、ハンドバッグから携帯電話を取り出した。
 捜査官専用の、特注品である。
 国際捜査連合を画面へ呼び出す。
 捜査官の検索メニューにする。
 そこに、ダニエル・ライアン、と入力した。
 羽田で待ち合わせた人物の顔が出てきた。
「間違いないようね」
 画面に出ている十二桁の識別コードを読む。
 先ほど羽田で見た、身分証明書に記載されていた数字と一致している。
「よし、確認」
 なにせ、初対面の人間なのだ。
 身分証明書を見せられたからといって、それで信用しているようでは、特殊捜査部門の捜査官は失格である。
 ダニエル・ライアンを中央警備室へ連れて行く前に、本人であることを確認しなければならない。
 そのために、部屋で一人になりたかったのである。
 次に高橋美由紀は、ハンドバッグから拳銃を取り出した。
 薬室内に弾薬が入っていることを確認する。
 かなり危険な携帯方法ではあるが、高橋美由紀の職業では、必要な事であった。
 特殊捜査部門の現場にいる限り、いつ撃ち合いになってもおかしくないのである。
 濃紺のスーツを着た凄い美人が、銀色の拳銃を持っている――。
 絵になる光景であった。
 高橋美由紀は、鏡の前で、拳銃を構えた。
 しっかりと腰を落とし、両手で拳銃を握り、肘で安定させ、照門を通して照星を見る。
 もし、格好を付けているんだ、などと言ったら、高橋美由紀に蹴飛ばされたであろう。
 あくまでも、射撃のイメージ・トレーニングなのである。
 次に、スポーツバッグを開く。
 化粧品や着替えのインナーバッグをベッドに出し、最後に、強化プラスチックの長いケースを取り出した。
 中身は、H&Kのマシンピストルであった。
 弾倉を装着し、やはり、弾薬を薬室へ送る。
 そして、そのままスポーツバッグに戻した。
 今晩は、シルバー・キャットが盗みに来るかも知れない、という情報に対処するための警備である。
 だが、ダイヤモンドを狙っているのはシルバー・キャットだけではない。
 ダイヤモンドを狙う者は、多数いる。
 特に、インド人の過激派は要注意であった。
 なにしろ、元々はインドの寺院にあったものを、イギリス人が盗んだのである。
 取り戻すためには、強奪も辞さないはずであった。
 ホテルの中で大銃撃戦になる可能性も、十分考えられるのだ。
 危機管理では、充分過ぎる、ということはないのである。
 こうした準備、確認を終え、初めて、高橋美由紀は部屋の中を見回した。
 シングルルームではあるが、広い。
 落ち着いた色調の、良い部屋である。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲む。
 ふと机の上を見ると、マッサージの案内が出ていた。
 メニューには、スポーツマッサージもある。
 今晩に備えて、筋肉の手入れをするのも悪くないな、と思う。
 そのとき、ドアのチャイムが鳴った。
 ボーイが迎えに来たのだ。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

プラチナ・フィンガー〜女王陛下のダイヤモンド〜< 第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話第9話

コメントを残す

おすすめ作品