幻創文芸文庫 (β)

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ラブストーリー

代替品

   

 見るからに幸せそうなカップル。だが、彼の目には彼女の姿は映っていない。

 彼女は彼の、思い出の穴埋めでしかないのです。

 

 
 日が落ち始め、帰りのショートホームルームが始まった教室内に、オレンジ色の光線が注ぎ込まれる。そよ風が窓の端に寄せられたカーテンをわずかに揺らす。
 小佐野美有(おさのみゆ)はちょうど窓際の席ということもあって、頬杖をついて窓の外を眺めていた。担任教諭の連絡は右から左へと流れる。質の悪いBGMのようなものだった。
 唐突に級友たちが立ち上がった。小佐野の身体も反射的に同様の動きをする。
 話を聞いていなかったとは思えない動きだった。ほとんど皆から遅れを取っていない。
 さようなら。先生の一言を一斉に復唱。同時にお辞儀。これで今日も学校生活が終わった。
 この後は部活のある者は練習に勤(いそ)しむし、まだ勉強し足りない者は自習室や図書室にこもる。特に用のない者は足早に下校する。
 小佐野は三番目の下校する立場の人間だった。
 机の横にかけておいたリュックを机上に乗せてから背負ったところで、小佐野の元に誰かが来た。
 笹森英太(ささもりえいた)だった。鞄を肩に乗せ、取っ手を手で握っているのはいつものことである。

「帰んぞ、サノ」
「んー」

 笹森がさりげなく、小佐野の手を握った。指と指を絡ませる。

「ヒューヒュー、今日も熱いね、お二人さん」

 笹森の幼馴染みにして、小佐野の隣の席でもある渡辺亮太郎(わたなべりょうたろう)がその姿を見てからかい始めた。笹森はうっとうしげに渡辺に手で払うような仕草をするが、嫌らしい笑みを浮かべて一歩も退こうとしない。
 やがて笹森がため息を漏らした。払うのをやめる。そして歩き出した。力強く握られた手に連れ去られるように、小佐野も続く。

「じゃぁな! 小佐野ちゃん、英太」

 大袈裟に手を振る渡辺に、小佐野は小さく手を振って答えた。ふと笹森の様子を窺うが、頑として前だけに据えられているため、表情を知ることはできなかった。

 

-ラブストーリー


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