幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

記憶が疼く

   

一年前の夏合宿。
蝉の声に、こめかみを伝う汗。
それが思い出したくない記憶であるほど
脳裏を揺さぶるのは、何故だろう。

高校3年生の少年が背負った切ない青春の一場面。

 

 絶えず蝉の鳴き声が響く。それはもう、耳の奥まで。
 雲ひとつない青空をバックに、遠くの木々が揺れるのを視界の端に捉えた。それから少し遅れて、生温い夏の風が俺の頬を撫でる。
 太陽に照らされ溶けかけた棒アイスが水滴となって灰色の岩に染みを作った。
 暑い暑いと隣りで喚きながらアイスを頬張る哲夫の隣りで、額に汗を滲ませながら、俺も最後のひと切れを口の中に放り込んだ。
「もう、一年か」
 哲夫が呟く。
「……何が」
「いや、別に」
 そういえば、去年の夏合宿の時も、こんな風にサボっていたっけ、と思い返すと同時に何だか胸の奥がいやにざわついたのを感じた。きっと、思い出したくないことまで、思い出してしまったからだ。
「どうしたんだよ、翔」
「なんでもない」
 急に立ち上がった俺を不思議そうに見たあと、哲夫はまた目を閉じる。
 毎年行われる俺たち弱小バスケ部の夏合宿。それも今年でいよいよ3回目。
 前年までは隙を見つけて練習を抜け出しサボっていたが、もう3年だ。
 最後の年くらいちゃんとしよう! とここへ来る前には確かに思っていたはずなのに、あまりの暑さに練習なんてしていられる気分にはなれず、例にもれず今年もこうしてのんびり時間を潰す事になった。
「暑いな」
「あぁ、暑い」
 海の見える合宿所。そう言えば聞こえはいいが、特に何もない田舎町。
 中でもこの大きな岩場は海が一望できる上に、周りには木々が多いので絶好のサボりスポットだ。去年の合宿の時、マネージャーだった菜月が見つけたのだ。
「今年はマネージャーがひとりだから大変だな」
 俺がそう言うと、しばらく間があってから、そうだな、とだけ返ってきた。
 そよそよと遠慮がちに吹く程度の風じゃ、気休めにもならないくらい暑い夏の日。
 太陽が肌をじりじりと焦がしていくのを確かに感じながら額の汗を腕で拭った。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品