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ショート・ショート

努力マシーン

   

会社を経営している東瀬 一は、本業の不調に加え、旧知の発明家、井田 太一に多額の投資をしていたためにかなり苦しい状況にあった。貸した一千万円が返ってこなければ今後会社が傾きかねないような感じである。

そんなある日、東瀬から借金の返済の知らせとともに、投資の対象だった、「努力できるようになるマシーン」が届く。

あらゆる個人や組織、国家にとっても、内部の人間が努力してくれるかどうかは極めて重大な問題だ。もしこれをクリアできるような商品なら、いくらでも金になる。

そう思って金を貸していたのだが、どうやら賭けには勝てたらしい。

しかし、ソフトを解読しようと試みると、やたらと難しい問題が次々と表示される。しかも制限時間が短いのでネットを使って答えを調べることもできない。これでは商品化はできず、当然会社の経営も良くはなってくれない。

仕方なく東瀬は、高校レベルの問題からやり直すことにしたのだが……

 

「ぬうう……」
 他に誰もいない事務所の中を、東瀬 一はぐるぐると歩き回っていた。
 こうして動いたところで何の解決策にもならないことは分かっているが、ただじっと立ち止まっていると不安で仕方がなくなってしまう。
 高校を中退してから約二十五年、必死に働き続けた甲斐あって、十年前からこの商店の社長になることができた。
 業績も伸び、二十人近くの社員を率いる立場にまでなった。
 しかし、いかに過去の実績があろうと、今結果を残せなければ苦しいのが会社経営という仕事である。
 不景気に増税、機器類の新規導入……、あらゆる逆風が会社に吹いていた。
 近くにコンビニと量販店ができたこともまずかった。
 ただでさえ少ない常連客の半分が店を替えてしまった。
 今はかなり人を減らしても黒字にはならない。
 だが、今東瀬が追い詰められているのは他にも理由があってのことだった。
 旧友の肩代わりをして連帯保証人になった、一千万円という借金が重くのしかかっている。
 もし万が一彼が支払えなくなったら、請求は自分の方に来る。
 十年前だったらわけなく払える額だったが、今となっては家財道具全てを売却しても都合をつけるのは難しい。
「参ったな、今日も連絡がないか……」
 東瀬は携帯を取り出してぼやいた。旧友、井田 太一は、月に一度、具体的には毎月二十日に連絡をよこしてくれることになっていた。
「計画」の進捗状況が分かるのはもちろんだが、彼自身の「生存確認」も兼ねているはずだった。
 だが今月は、もう二十五日になるというのにメールがない。
 今まで彼が連絡を欠かしたことはないので、うっかり忘れているとは考えにくい。では、何が?     
 考えれば考えるほど深刻な想像になってしまう。
 井田は元々発明家志望で、学歴や社会的地位など全てのものをなげうって進んできた人間である。
 いくつもの特許や実用新案を取るなど腕というか頭脳には確かなものはあるが、それで儲けたという話は一度も聞かない。
 とにかく新しいものを世に出せれば満足という男なのだ。
(だが、今度のは違う……)
 東瀬は歯を軋らせた。
 期待と不安で目まいがしてくるようだ。
 だが、見返りがあるからこそ、井田に大金を投資したのである。

 

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