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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season4-1

   

 御影は免許を持っていないことに小柴から激怒された。取得中、と履歴書に記載していたことに、小柴ですら盲目に見逃していた。

 事務員としてのプライドから、小柴は御影に早々に取得するよう命じる。
 その間、探偵の依頼任務はさせないことに御影は落胆するが、これも探偵としてのスペックだとして、翌日から教習所へ向かう。

 高速道路実習と卒業試験のみを残していただけだった。運転技術に自信があった御影は、軽くクリアしてみせると約束した。

 同い年の女の子が同乗することになる。

 栗原 毬(くりはら まり 22歳)。この出会いが意外な発展に御影は心が揺らいでいくことになる。

 御影の淡い恋心の予感、ここにはじまる。

 

 探偵事務所にきて、3ヶ月が過ぎた。

 ペット捜しと大地さんの人捜しをして以来、依頼が御影にはない。

 いつまでも馴れないパソコンと、事務処理。ほかの探偵の支援隊として待機する日々を送っていた。
 時間があれば403号室の資料部屋で過去の事案を読み漁る。
 これがいちばん勉強になる。下手な推理小説や、ドラマや映画を観るより、とてつもない参考になる。
 イメージが湧く。

 一流の探偵が危機迫るなか、限界すれすれのなかで調査している報告書。なによりの宝だった。

 見ているだけで、探偵としてのレベルがあがっているのがわかる。
 知らないことが、こと細かく記載されている。

 文字から生まれる発想。想像。映像が流れてくる。まぶたの裏のスクリーンに物語が見えてくる。

 なにを知識として頭に入れておくべきか、それがいかに、現場で活用できるか、教えてくれるのだ。その紙のなかの文字は語り始めるのだ。

 日に日に、御影の所有する物が増えていく。だが、まだ特技らしいアイテムや、そこにつながるアイデアはない。

 森谷さんは変装、体にはプロテクターを装備している。以前そのおかげで命を救われている。

 格闘術は特技といっても、ほかの探偵はだいたい修得している。護身術としてとうぜんだ。
 御影もそれなりに習っていたが、川上や火守のほうが上。もしかしたら大地にも劣るかもしれない。まだまだ修練の日々はつづく。

 自分らしい武器になる特技。それを見つけようと悩んでもいた。

「まだまだ、青二才って実感してしまうな」

“見習い探偵”。そう呼ばれることの不満は、まだまだ初心者マークをはずせないことを自覚していた。

 小柴から内線があり、下りてきてほしい、頼みごとがある、といったから素直に二階へおりた。

「なんですか?」御影は無愛想にいった。

「水桐探偵を迎いにいってほしいの、地下にある探偵社が所有している、シルバーのカローラが空いているから使っていいわ。行ってきてくれる?」

「車? 運転するってこと?」

「あたりまえでしょ」

「おれはまだ免許持ってない」

 小柴は、眉間を寄せる。「なんですって、でもあなたの経歴書には…」
 小柴はすぐにファイルを開いた。そこで手が止まる。

 ほかの事務員もピリリっと殺気を感じたように恐る恐る小柴に視線を向けた。

「なんだ、この異様な空気は、なにが起きようとしているんだ?」御影も感じ取った。

「あなた、嘘ついたわけ?」小柴は経歴書に指を指す。

「嘘ついてない。免許取ってる最中なんですよ」

「でもここには取得年月日が半年前のが記載あるじゃない」
 日付を指差している。

 御影は眉を寄せて自分で書いた経歴の書類に目をとおす。

「あー、これね。ちがいますよ。自動車免許第一種取得“中”、って書いてますよ」

 日付の横へ、指をずらすようにいった。

 小柴は書類をみなおす。「ほんとね」

「それに取得年月日ではなくて、通い日を書いたんだけど…」

「なに?」小柴は視点をずらす。だが、そこには資格取得の欄となっている。

「取得してないのにわざわざ書くな!」
 小柴は御影の書類をゴミくずのように丸めてデスクに叩きつけた。

「手、痛そう。だいじょうぶ?」

「やかましいの。まったく、それでいまはどのくらいクリアしてるの?」

 ここまで腹を立てた小柴はみたことがない。みずからの羞恥をごまかしているようにみえる。
 ほかの事務員たちも同じように感じただろう。

“めずらしい”。

 書類に記載されていることを見逃すことがない。これはあきらかにチェックミスしたのだ。

 たが、最終的にチェックしたのは森谷だった。

 小柴は、あのくそじじぃ、とぜったいに逆恨みしているにちがいない。と事務員たちは察していた。

「あとは高速道路の授業があります」

 小柴の顔が少し晴れた。

 そこに佐伯が割って入った。「なら、あと二日いったら終わりそうじゃない。高速道路と、卒業試験の道路の運転ね。それであとは、ここからだと府中の免許センターで最終学科の筆記で合格したら取得になる、ちょっとじゃない」

「そうね、たしかに」小柴も同意した。「でもいま必要なのに、水桐さんにはわるいけどタクシーでもどってきてもらうしかないわね」

「ややこしくして、すみません」御影は詫びた。

「なら、命じるわ。あなたは今から免許のことを最優先に考え行動なさい」
 小柴は御影に人差し指を向けた。眉間を刺すかのように。

「え? そうすか。わかりました。おれもじっさい忘れてましたし、探偵になろうと思って自分なりにいろいろやってて、でもいざ採用試験受けたら落ちたし、でも就活だのと、すっかり頭になかったな」
 御影は言い訳の中に採用試験のことを持ち出す。

 小柴はいまだに根に持ってるのか、と刺した指をおろし、舌打ちでしめた。

「とりあえず免許取得まで探偵業はおあずけ」

「えええ!」御影の肩はがっくし落ちていた。

「出社しない分の給与は支払うけど、すべて一回でクリアし、最短で取得しなさい。じゃなきゃ普通に欠勤扱いで給与支払わない。いい!」

「わ、わかりました」目が本気だとわかった。
 御影は小柴の指示はぜったいであると悟るしかない。なんといっても人間の原動力は、給与である。

 

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