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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode13

   

 ケンさんと陽太に心を動かされた魔夜は、自分なりにも事件解決の手助けをしたいと思う。自分の過去の資料を、陽太に頼むのだった。

 本格ミステリー!!
 44口径より、愛を込めて

 

「このタレ美味しいです。後で、作り方教えてください」
「いいわよ。炒め物に使っても、とても美味しいから」
 キャベツを切り終わったタイミングで、大雅の肉が焼けたという声が聞こえた。
「魔夜ちゃん、私達も行きましょう」
 小春ちゃんが先程ウィンナー入りで持ってきてくれた紙皿を持って、焼けた肉と野菜を貰いに行った。近くで、小春ちゃんが陽太君に「あ~ん、して!」と言いながら、鶏肉を食べさせようとしていた。
 コンロから少し離れた場所で、アウトドアチェアに腰掛けてビールを飲むケンさんの横に歩み寄ると、私も右隣にあった空いているアウトドアチェアに腰掛けた。
「魔夜ちゃんも、どう?」
 ケンさんが、左横に置いてあるクーラーボックスの中からカクテルを取り出した。
「ごめんなさい。アルコールは、控えていて」
 ケンさんが、微笑した。
「大丈夫。そう思って、ノンアルコールカクテル」
 私は受け取って、一口飲んだ。ジントニック味だった。
「考えても見たら、初めてでした。小春とバーベキューするの。火も起こせない親父だなんて、情けないですね」
 ケンさんは、誰に語るでもない風に、ポツリポツリと話し出した。
「最後にバーベキューをしたのは、いつだったかな。……そうだなぁ……学生の時だった気がする。陽太とも、したことないなぁ」
 酔っているのか、ケンさんが飲みかけの缶ビールを一気で飲み干した。
「バーベキューどころか、満足に遊びにだって連れて行ったことがない。本当に、最低の親父です。……そこに、犬小屋があるでしょう。五年前の秋、台風の前日に小春が子犬を拾って来たんです。私に出来たのは、飼う事を許可してやったことぐらい。陽太が、小春と犬小屋を作って、名前まで決めてやっていました」
「その子犬は?」
「小春が小学校一年生の夏、病気で死んでしまいました。大泣きする娘の近くに、気が済むまで居てやる事も出来なかった。それを知って、陽太が小春を夏祭りに連れて行ってくれた」
 ケンさんは、クーラーボックスから新たに缶ビールを取り出した。
「いつも、陽太が私がやりたかった事を、代わりにやってくれていた。それに、甘えていたのかも知れません。小春にとって、私は親父であるんでしょうか。小春にとって、陽太は何なんでしょうか。陽太が親父であり、私は只のオジサンなんじゃないのかって思うんです。家族の為に、人の為に働くことが、結果家族を犠牲にしている、そう思うんです。ですが、やはり私には守りたいものがある。だから、陽太を危険な目に合わす訳にはいかないのかも知れません」
 目先では、大雅と代わって奥さんが笑いながら肉を焼いていた。小春ちゃんの差し出した豚肉を、陽太君の代わりに大雅が食べたらしく、小春ちゃんが真剣に怒っていた。
「ケンさんは、どんな状態であれ、小春ちゃんの大切なお父さんですよ。きっと、小春ちゃんにとって陽太君は、騎士(ナイト)様。だから、ケンさんも無茶しちゃいけないんです。ケンさんがいるから、陽太君はきっと小春ちゃんの騎士様でいられるんだと思いますよ」
 私は、立ち上がった。
「魔夜、肉食えよ!」
 と、大雅に呼ばれたからだ。小春ちゃんが、大雅を「こいつめ!」と何度も叫びながら、蹴りを入れている。
「大雅、小春ちゃんに何したの!! 女の子泣かせるなんて、最低」
「魔夜さん、大雅さん酷いんですよぉ! 浮気モノですよ!!」
「そりゃ、最低だな。大雅の器にワサビ入れて復讐してやりなさい」
「うん」
 小春ちゃんは、ワサビを取りに家の中へ走って行った。
「魔夜、ホントにいらんことを」
 ワサビが大嫌いな大雅は、ブツブツ言いながらコンロの方へと戻って行った。
 私は、肉と野菜を貰うと、ケンさんの隣のチェアに戻った。同時に、小春ちゃんがチューブ入り練りワサビを持って帰還。近くで陽太君が爆笑している。
「私には、父の記憶は愚か、藤代魔夜としての記憶しかありません。だけど、父の事を大好きだった気がする。ケンさんみたいな父だったら、良いなぁって思います」
「言い過ぎです」
 ケンさんの顔は赤かった。少し、飲みすぎたのかもしれない。
「この事件(ヤマ)が片付いた暁には、長期休暇を取って、家族で海外旅行でもと思っています」
「きっと、小春ちゃん喜びますよ」
 バーベキュー最後の焼きそばが始まった。今度は、陽太君が自信満々にヘラを振り回している。
「疲れた! ワサビは、マジきついって」
 私の斜め前に置いてあったアウトドアチェアに、疲れた顔で大雅が腰を下ろした。
「お疲れ」
 そう言った私の方へ、大雅が文句ありげな顔を向けた。
「何よぉ。文句あるなら言いなさいよ」
 大雅の頬を摘んでいった。
「ふるはぁい」
 頬を摘まれていなかったら、多分“うるさい”と言いたかったのだろう。
「お二人の為にも、早く事件を解決しなければ」
 そう言うとケンさんは立ち上がり、小春ちゃんの方へ歩いて行った。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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