幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二十一>

   

作戦の遂行時刻になった。雲は時折太陽を隠し、不安をあおる。突然の突風に吹き付けられた俺達の前には赤い目を光らせる茶色の大ネズミの姿がそこにあった。乾いた破裂音が耳を刺す。

 

 
 さぁ、覚悟の日が始まった。俺は七時から起きてソワソワしていた。昨日のホッキ貝は中々旨かった。いや、美味すぎた。そのお陰で日本酒をかっくらったせいか頭が痛い。無理に一歩を踏み出そうとするとフラッする。京子はまだスヤスヤと眠っている。今日がどれだけ過酷な日になるのかは伝えてなかった。
 マヤは俺が起きるよりずっと前から起きて化粧を整えていた。厚化粧にも程があるんじゃないか? そう思ったが、恋焦がれる金丸相手じゃぁ仕方がないのか。
 時刻は九時半を回たところ。誰かがインターホンを大きく鳴らし、俺は玄関に向かい鍵を開けた。そこには背を真っ直ぐ正し、髭を揃えた精悍な姿の山根が立っていた。
「山根さん、おはようございます。いよいよですね」
 山根は深くお辞儀をし、神妙な面持ちで口を開いた。
「斎賀さん。出る答えは一か二です。それ以外はありません。こんな事言うのもなんですが、覚悟はしておいて下さい」
 山根の顔は今までに見た事もない様な真剣な顔だった。俺はその顔に、圧力に少し怯んでしまった。
「わかってます。凶と出るか、吉と出るか。籤箱を振った者にしか分からないものなんですよね。でも俺は信じます。マヤが無事で大ネズミが捕獲される事を」
「そうですね。無駄口が過ぎました。申し訳ない。我々も尽力を尽くします。後は敵が現れてくれるかどうかです」
 問題はそこだ。でも策はある。ラットの尿から精製したとっておきの香水だ。それをマヤに付けさせれば、匂いに誘われ姿を現わすだろう。
「大丈夫でしょう。例の香水があります。そろそろ時間ですよね。マヤを呼んで来ます」
 俺はマヤを連れて一階のエントランスへ向かった。そこには山根、金丸、高崎、廣瀬、吉高、森。そして獣医師であろう三人。制服を着た強面の地元警察官が四人。
 さぁ駒は揃った。策も万全だ。相手のナイトはジリジリと迫ってくるだろう。しかしキングとクイーンはまだ動かない。この勝負。勝ったも同然だ。そう思った。
 

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品