幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season4-2

   

 本試験を受けたが、結果は散々たるものだった。御影の浮ついた心が集中力を欠いていた。

 まさかの栗原との再会。運命的に勝手に思い込んでしまっている御影。
 試験が終わったら、互いに免許取得に祝杯をあげようと、そんな妄想を考えていたためか、試験は落ちた。

 一方、栗原は受かった。たがいに道は別れてしまった。言葉を交わすことができなくなった御影、それはさよならを意味していた。

 小柴にひどく激怒される。だが、探偵になるために、つぎはかならず合格する、と探偵や事務員たちのまえで宣言する。
 恋は二の次。御影は悟った。このままでは給与の減給はまちがいなくなってしまう。
 人の原動力は、給与であるからだ。

 そして、再試験の日。御影にとっても、意外な事態に直面する。

 

 あっというまに試験時間は終わった。御影の顔は青ざめていた。

「あれ、やべ、マジやべーよ。どうしたおれ、なぜ集中できなかったんだ──」

 試験の合否がでるまで少々時間がある。そのあいだは離席してかまわなかった。合否結果がでる五分前にまた着席していればいい。

「どうでした?」栗原がきいた。

 御影は自動販売機のまえで、缶コーヒーを買って、プルタブを開けた。最高の一口めをのむことの生きがいたる執着があるスタンスを、このときはくちにはこぶことができずにいた。
 缶のなかのコーヒーのうまみ、香りがどんどん空気に触れて逃げていることを忘れてしまうほどショックをうけていた。

「いや、ぜんぜんダメ。なんか雑念というか、頭が回っていなかった。できたのたぶん8割くらいかも──」

 90点以上で合格。御影の8割という自己採点だと80点弱なため、不合格となる。

「だいじょうぶですよ。そんなにめげてしまうと、ほんとうにそう結果になってしまう」栗原は励ますようにいった。

「きみは?」

「なんとか、できたような、そんな手ごたえはあったかも」御影の顔色をみながら答える栗原は、やや遠慮がちだった。

「そうか、おめでとう。ちょっとはやいけど、その自信はおそらく正しいような気がする。きみは合格だと思う」御影はどんどん落ち込んでいた。

「これが落ちたとしても、つぎがんばりましょうよ」栗原はもっともらしくいうが、御影の事情がそれを阻んでいることをしらないから軽率にいえるのだ。

「いや、そういうわけにはいかない。給料が…」

「え、給料? 会社から費用がでているんですか?」

「まぁ、そんなところで、一発でぜんぶ受かればとくに問題はなくて、きょうもほんとうなら出勤日だけど、仕事で運転免許必要だからって、車の運転とかもするから。もう探偵になるまえにやっぱり準備しておけばよかった」

 御影はおもわず口走っていた。

 栗原は、鋭い目で御影をみていた。「探偵?」

「え、おれ、いまそういった?」

「はい。探偵って、仕事は探偵業なんですか?」

「あ、いや、そうだね」御影はバカ正直にこたえていた。
 落胆している人間は、おもわず本音が浮き彫りになりやすく、胸中の負荷を軽減するために第三者に苦悩の楔を分かち合ってもらいたくなってしまう。

 つい、という言葉が人間にとっての厄介なものだった。
「つい、いってしまったけど、でも気にしないで」御影は引き攣った顔で笑顔を取り繕った。

 小柴があれだけ追い込むからだ、と御影の胸中は罵倒していた。

 時間になったから、席にもどるようにアナウンスがきこえた。

 重い足取りで御影は会場の自席にもどる。

 栗原は、時間になったことで無表情の不穏な顔のまま御影をみつめていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season4 <全7話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話

コメントを残す

おすすめ作品

見習い探偵と呼ばないで! Season2-5

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第四章「雪密室の謎」 3

44口径より、愛を込めて episode4

見習い探偵と呼ばないで! Season15-11

見習い探偵と呼ばないで! Season15-12