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SF・ファンタジー・ホラー

死神の鏡身 十話

   

シャオは社会科見学のために少女たちを港に連れ出す。

 

第四章

 都では毎朝幾艘も船が出る。それも朝早い時間に。漁に出るのだ。その漁で一日に都の人間の生活を賄えるだけの魚を取る。
 それだけに、出る船の数も多く、並べば地平線を埋め尽くすほどの長い列になる。
 そして、日が昇りきったころに戻ってきて、全ての魚を都に下ろすのだ。
 その魚は、機関や中層に送られたり、その場で売られたりする。
 そしてその仕事の関係で朝の漁港は目が回りそうなほど忙しい。
 そんな真っ只中に、シャオはいた。
「これ、私達邪魔になってるよね」
 大人しげな瞳を、港のあちこちに向けて、アカネちゃんがそう言った。
「そもそも、探索科の私たちが何で漁港なんて見にきてるのかって話よ」
 ココロが髪の毛をもてあそびながらそう言った、ココロちゃんはもはや飽きてしまったようだった。
「何度も言ったろ、自分たちが就く予定の仕事以外も学んで、社会への理解を深めるための授業だって、だからこれで正しいんだよ」
 そうシャオは、手元のスケッチブックに手早く筆を走らせる。
 そこに描かれているのは漁港の絵。石畳、朝日を背負った船の列、そして二枚目には人であふれている漁港。
 シャオは絵をかくのが得意だったし、子供たちが資料作成する際の手助けになると思って模写をしていたのだ。
 そして同じように周囲の絵をかくクジュがその近くに座り込んでいた。
 低血圧のせいで力が出ないんだろう。生気のない顔をしていた。
「あー。なんでだろ。なんでこんなじめじめしたところ選んじゃったのかな、早く帰りたい」
 ココロちゃんは一歩前に躍り出て、漁港を見渡しながら言った。
 その頭にシャオは手刀を振り落とす。
「あいた!」
「そんな大声出すなよ、力はあんまり入れてないだろ」
「なんで、殴った!」
「せっかく見学させてもらえてるのに、失礼なこと言うからだ」
 そうにらむシャオにココロは思わず一歩あとづさる。
「う~」
「まぁ、ゆるしてあげてよ、おにいちゃん。普段はこんなこんなこと言わないんだから」
「今日はココロちゃんは髪型の決まりが悪いから。虫の居所が悪いのよ、きっと」
 アカネが手元のノートのにせわしなく書き込みながら言う。
「私みたいにしっかり起きればいいだけのこと」
「まぁ、わたしが起こしにいったんだけどね」
 クジュがさらりと言う。
「うわわわっ、クジュ!」
 あわてるアカネに。はじけるように首を持ち上げたココロ。その目は怪しげにぽぅっと光る。
「へぇ、私みたいに……。なに?」
「えっと~」
 アカネは額に汗を浮かべる。
「おまえら、きちんと記録取れよ……。時間がないんだから」
 シャオはため息をついた。
 というのも、ここで記録をとっていいのは、朝の一時間が限界でそれ以上は認めれらていないからだ。
 そしてこの後は学校に戻ってから、資料をまとめる作業に入る予定だった。
 社会科見学という授業は見学したから終了とはならない。各自、班ごとで学んだ内容をまとめ、十五分程度の発表できるようにならなくてはいけないのだ。だから生徒たちはその資料作りのために仕事について聞き込みをしたり、シャオのやっているように風景をスケッチしたり。ほかにもしなくてはならないことがあるはずなのだが。
「まじめにやらないと、あとで困るのはお前らだぞ」
 そんなつぶやきは姦し娘三人組には届かないようで、くるくる変わる少女たちを楽しそうに見つめるだけだった。
(楽しそうでいいな)
 シャオはそんな少女たちを少しだけうらやましく感じた。
(俺も、社会科見学はここに来たっけな)

 

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