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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二十二>

   

廣瀬の射撃の腕は確かだった。しかしこんな形で見せ付けられるとは、思ってもみなかった。

 

 
「ひぃろぉせぇぇぇ! 出てこい! お前を今から同じ目にあわせてやる。マヤの夢、マヤの願いをお前は指先の力加減一つで台無しにしたんだ! 奪い去ったんだぁ。おい聞こえているんだろ。そっから降りてこいよぉ。俺と戦争しようぜぇ。あぁ? 早くしろよぉ!」
 
 俺はマヤの動かなくなった体を観て頭の神経が一つ違った場所に入ってしまった。肩を振り乱して暴れる俺を山根と森が必死に制した。
 体に二人分の重みが感じ取れた時、俺の全身の力が抜け、地べたに崩れ落ちた。
 空に暗雲が立ち込める如く、とめどなく涙が零れ落ちた。
 その涙を洗い流すかの様に突然のスコールに見舞われた。
 アスファルトに打ち付ける雨粒が、地面に流れていたマヤの血を紫色に変え、溝に流れゆく。
 叩きつける様な雫はマヤの窪んだ目に水溜りを作り、その水溜りが溢れるのが、涙の様に見え心が苦しく、虚しかった。
 救急車は金丸をストレッチャーに乗せ運んで行く。マヤはその場で死亡が確認された。極度の貧血と、多量のケタミンがマヤの儚い人生を奪った。
 人が夢を見ると、それは叶わぬ夢。儚い現実となってしまう。だが夢を見ることは人の糧になる。それに向かって一直線の人間は輝いている。マヤはどうだったんだ? 親に虐待を受け、さらに勘当され、それでも笑顔を繕っていた彼女は輝いていたんだ。俺にとっての望みだったのかもしれない……マヤ、ごめんな。俺、悪口みたいな事ばっかり言ってたけど、本心ではマヤが羨ましかったんだよ。誰よりも正直で、真っ直ぐで、失敗だらけだったかもしれない。アワビとホッキ貝を勘違いしたかもしれない。でもそれで良かったんだ。だって、あんなに美味しかったんだ。確かにお前の愛がこもってたんだ。なぁマヤ。俺は何をすれば良いんだろうか。これから何をすれば良いんだろうか。なぁ答えてくれよ。もう一度俺を抱きしめてくれよ。

「なぁマヤっ! 俺はどうすれば良いんだ? 教えてくれよ!」

 目の前に閃光が走った。そして雷鳴が轟いた。低く地響きの様な音だった。豪雨はマヤの化粧を溶かしてゆき、本来の優しい顔が空を見つめている。俺はマヤの瞼をそっと左手で触れ、目を閉じさせた。さっきまでの青空は何処に行ったのだ。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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