幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

月うさぎ/第3夜

   

第3夜

“月うさぎ、手紙を届ける”

 ホットケーキを思わせる綺麗な半月の夜、月うさぎは小さな男の子に出会います。家を去ったパパにお手紙を届けたい。ひとりと一匹の奮闘が始まります。

 大人のための絵のない絵本、少し不思議な癒し系ファンタジー。

 

第3夜

“月うさぎ、手紙を届ける”

 くっきりとした形の半月が、真っ暗な夜空に浮かんでいました。まん丸のホットケーキをナイフでふたつに切り分けたような、綺麗な形のお月様です。

 その綺麗な形のお月様から、一匹の白いうさぎがふよふよと真夜中の街に降り立ちました。まるでぬいぐるみのような容姿ですが、彼はこれでもれっきとした〝月うさぎ〟です。

 月うさぎがちょこんと着地した場所は、小さな公園の小さな滑り台の上でした。

 背の高いコンクリートのビルがジャングルのように生い茂る都会の街。小さな公園では、本物の緑たちが窮屈そうに夜空を見上げています。

 公園の中央にはこじんまりとした砂場が陣取り、砂場へとつづく滑り台は、綺麗な空色のペンキで塗装されていました。お日様の出ている時間に、下から見上げたなら、きっと広い空とひとつづきに見えることでしょう。

 その空色の滑り台のてっぺんで、月うさぎは一生懸命に耳を澄ませました。長い耳をぴんと立てて、赤いビー玉のような瞳をじっとつむって、聞こえてくる夜の音に気持ちを集中します。

 今夜の願い事の主の声は、それはそれは小さなものでした。銀時計のコンパスは、おおよその位置を教えてくれますが、そこから先はこの自慢の耳が頼りです。

 月うさぎの長い耳は、色々な声を拾うことができます。夜の木々の囁き声や、食べ物の夢を見る誰かの幸せな寝言。耳をくすぐるこの高い音は、眠れない渡り鳥たちが交わす噂話でしょうか。

 そんな様々な音に混じって、願い事をするかすかな声が、ほんの数秒だけ、通り過ぎるように月うさぎの耳をかすめました。でも、その声は、他の音に押し流されて、すぐに途絶えてしまいます。

 月うさぎはつむっていた赤い瞳をぱっちりと開くと、白い前足と後ろ足で勢い良く手すりを蹴り、ぴょーんっと夜空に飛び立ちました。のんびり屋の月うさぎにしては、それは珍しく機敏な動きでした。

 目指すは、高層マンションの最上階です。途絶えた声は、確かにそこから聞こえてきたのでした。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16