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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode15

   

 覚悟してページをめくる魔夜。だが、魔夜自身の情報は抜け落ち、更にそこには嘘が隠されていた。

 本格ミステリー!!
 44口径より、愛を込めて

 

 入院中、暗所及び閉所に極端な恐怖心を示す。孤独に対する恐怖も強く、離人症、パニック発作、悪夢を頻繁に起こす。PTSDとの診断。離人症による自殺行為を繰り返すため、度々拘束を余儀なくされる。
 退院一ヶ月前、突如個人情報に関する全記憶を喪失する。記憶喪失後、PTSDの発症無し。暗所、閉所恐怖症は僅かながら残る。入院期間は約六ヶ月間。
 入院中、謎の人物より殺すとの脅迫多々有り。また、事件詳細を記録する為、厚生労働省にて無期限保護対象に承認。尚、家族には行方不明との報告がなされている。
 きっと、大雅自身もここまでの内容は、把握していないであろう。記憶を失ってから初めて、事件以前の自分達の情報だと渡されたデータは、プロフィールのみが箇条書きに印刷された紙切れだったのだから。だから客観的に、何一つ取り乱さずに読み終える事が出来たのだろう。受け入れられた訳じゃない。納得出来た訳じゃない。ただ、読んだだけなのだ。道端に咲く花の名前を知るように、自分の事を“知った”だけなのだ。魔夜あるいは大雅と言う人物の、知識を得ただけなのだ。
 第二次コーラカル・アヂーン大量虐殺事件のページへと捲る手が震え、ファイルを床に落としてしまった。再び拾い上げるまでに、どのくらいの時間が掛かったのだろうか。僅かな時間だったと思う。時計の秒針が、静かな室内から頭の中へとチクタク木霊するのを聞いていたから。とても息苦しかった。とても。
 私は、入院中の大雅の写真に、再び視線を落とした。彼の姿をおまじないの様にそっと撫で、その流れでページを捲った。
 第二次コーラカル・アヂーン大量虐殺事件、当時の状況報告だ。第一次同様、吐き気を催す程、悲劇的な写真が数枚貼り付けられていた。
 エスカレーターで逆さまに倒れ込んでいる人、白目を剥いて手すりに乗っている人、売り物の衣類に隠れるように蹲っている死体、出入り口で血塗れになって積み上がる遺体、血みどろの床、散らばる商品……。視線を止めて見ることが出来なかった。気分の悪さに意識が遠のきそうになり、キッチンで吐いてから再びソファに戻った。大雅に怒られそうだが、知ったことか。
 私は、当時の状況を読み始めた。三年前、第一次から二年後、日曜日十七時頃。海と隣接する港デパート警備室より、緊急通報が入る。内容は、マシンガンを持った男数名に攻撃されたというもの。通報中の銃声を最後に、通信が途切れる。
 五分後、第一次事件を考慮し、パトカー三台と救急車三台、消防車一台が先行して到着。同時刻、デパート内より連続して爆発音が響く。既に、機動隊、自衛隊、消防車二台、パトカー四台、救急車四台、ヘリコプター一台、海上船一台が現場に向かっていた。人質の安全を考慮し、強行突破のタイミングを計れず。結果、コーラカル・アヂーンによる大惨事を免れる事が出来なかった。強行突破により犯人グループを逮捕出来たのは、最初のパトカーが到着してから約三時間後だった。
 デパートは、エスカレーターとエレベーターで繋がれた三階建て。警備室からの緊急通報により、混乱は避けきれなかったものの、二、三階に居たほぼ全員が店員の誘導により早期避難に成功している。犯人グループは、一階でガスを巻いた後、三階に移動。逮捕。第一次同様、犯人達は三階でヘロインを吸引していたものと考えられる。
 第一次の説明同様に、犯人の侵入ルートが、赤で印されたデパートの見取り図を加えて説明されている。犯人達は一階に用意された四箇所の非常口と、正面玄関から侵入。地下駐車場と二階に繋がるエスカレーターに手榴弾を投げて封鎖すると、混乱の中ガスを撒いた。二三五名がガスによる窒息死、二十八名が銃殺、一名重傷。死者二六三名。
 ここまで読み進め、ある事に気付く。ケンさん、陽太君から聞いていた内容との相違点。私達は、私達以外に生存者はいないと聞いていた。しかし、報告内容によると、少なからず生存者は存在している事になる。玲奈さん、部屋にいた宿泊客、デパートで店員の誘導により逃げ延びた人。
 何故、偽る必要がある?
 私達が聞いていた坂下や賢木田の情報収集の為の保護下だという理由が、以上の情報内容では、何かを隠す為の単なる口実にしか思えない。
 保護の理由は他に、事件詳細を記録する為とあるが、詳細不明の毒ガス、コーラカル・アヂーンについての影響を研究する為とも考えられなくも、ないが。
 もう一つ別に大雅が入院中殺すとの脅迫があったとある。
 一体誰が、何の為に?
 脅迫から保護するにしても、嘘を本人達に教えるなんて。
 ……私の時は、どうだったのだろう?
 私は、はちきれんばかりに打ち鳴らす鼓動を飲み込んで、ゆっくりページを捲った。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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