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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二十三>

   

マヤの通夜へ山根と共に出席した。初めてマヤの両親に会う。その虚栄に俺はだんだんと我慢ができなくなってきた。

 

 
「おはよー。もう起きてたんだね! 早いね!」
「あぁ。なんか寝つきが良くなくてさ。でもこの朝日を見て気がついた事があるんだ……クヨクヨなんてしていられないって。空の壮大さが教えてくれた。あぁ、朝飯……そういや昨日は晩飯も食わなかったな。京子のポトフが食べたいな!」
「わかってるよっ! 今温めてるところだからもう少し待っててね」
 そう言い京子はエプロンを身に纏い、キッチンに立った。何やら火加減を微妙に調節している。
「はいっ! 出来たわよっ! 召し上がれ」
 湯立つ陶器の中にはキャベツとトマト、ソーセージ、ズッキーニが柔らかく金色のスープに浮いていた。
 スプーンを使って一すくいする。口元へ持って行くと香ばしいバリックの効いた匂いと胡椒の辛味。共に優しい香りが顔面を覆い尽くす。
 無言でミルクに手を伸ばす。ぐっと一息で飲み干してしまった。京子は何も言わずキッチンへと立ち、冷蔵庫を開けミルクを注いでくれた。
 俺より心的ストレスは京子にある筈。なのに京子はいつもと変わらず俺に接してくれている。京子はよほど無理をしているんだなと実感した。
 俺は京子に何をしてあげれるんだろう。何をしなくちゃいけないんだろう……
 ドアホンがけたたましい音で来客を知らせた。俺の心の奥底では「マヤじゃないか?」と思ったが、そんな筈はない。ユックリと玄関に向かい鍵を開けた。
「斎賀さん。昨晩のことは……」
 そこには深々と頭をさげる山根の姿があった。
 俺は何も言わず、部屋へ入る様に促した。
 リビングのソファーに腰掛け、京子がキッチンで紅茶を淹れている。勿論、アールグレーにブルーフルーテッドフルレース器だ。山根は神妙な面持ちで口を開いた。
「実はマヤさんの葬儀の事なんですけど。お二方は出席頂けるでしょうか?」
 心配そうに鬱蒼と生やした眉毛が上下に振れていた。はたして俺たちが行って良いものなのか。それはさて置き、京子はマヤの幼馴染。出席する義務はあるし……
「斎賀さん。貴方は曖昧な存在です。ご親族の意に反するような事があれば問題になります。何せ、マヤさんのお父上は市議会議員の日野議員なのですから。報道陣も押し寄せて来るでしょう。どうなさいますか?」
 バカを言うな。マヤが誰の何処のご子息だって関係ない。俺達は友達だったんだから。な! 京子。
 京子は一点の曇りもなしに答えた
「二人で出席します」
 京子の発言に些か虚栄だったかもしれない。でも何を隠そうとする事があるのだ。悪いのは服部と云う男なんだから。
 マヤの住んでいた実家は隣町の豪邸で、その前で車のエンジンを切った。お互い喪服なんて持っていなかったから、近所のスーツ屋さんに行って仕立ててもらった。

 

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