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モノクロビオラ 6章

   

目的地に向かう途中、色について語り始める竹内春菜。
彼女の言葉は何を意味しているのか。
二度目の模造線路との対面を前にして、不可解な”何か”は増える一方だった――。

 

 春菜さんは助手席に乗り、タクシーの運転手と他愛のない会話をしている。春菜さんは僕のことを全く意に介していない様子だ。
 僕は窓ガラスに映る春菜さんの顔に、何か記憶の断片のようなものを探してみたが、そんなものは見つからなかった。
 考えれば考えるほど泥沼にはまっていく気がして、僕は窓の外に見える何気ない風景にただ視覚だけを運んだ。外を歩く人は、心なしか老人や主婦が多い気がした。
 そうだ、今日は平日だった。
 つい先日まで学生だった僕にとって、平日の昼間の風景は新鮮なものに見えた。そしてなんとなく、脆いような、つつけば壊れてしまいそうな、そんな風にも見えた。
 今この街で何かが起これば、誰が街を守るのだろう。警察? いや、見渡す限り警察なんていないじゃないか。そりゃあどこかでパトロールなりしているのだろうけど。通報されれば動くのだろうけど。
「あ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
 春奈さんはタクシー代を払い、僕に軽く目配せをして降車する。
「さて、いこっか」
「まだ頭の整理ができてないんですけど……」
 ふふっと笑って春菜さんはこちらを振り向いた。
「整理が必要なのはこれからだよ」
 嫌な予感のする言葉だった。
 舗装された道から外れ、僕らは観光用の広場に入る。平日ということで観光客はおらず、ここにいるのは僕ら二人だけだった。
 風の音と、それに揺られる葉の音だけが聞こえる。昼間だというのに、夜の静けさに似ていると思った。
「整理をする前に、準備をしておいたら?」
「準備……心の準備のようなものですか?」
「うん、心の準備。精神安定の準備。また倒れ込まれちゃったら困るもん」
 春奈さんはそう言うけれど、だったら倒れ込むようなものを見せなければいいじゃないかと思う。
「心の準備ならもうできてます。大丈夫です」
 それでも春菜さんは、まだ僕の真正面に立ったまま動き出そうとしない。
「前とは違う……前よりも酷いって思っておいてね」
「前よりもひどい……ですか……」
「そう。もし成功すればだけど、脳を抉られるような感覚に陥るかもしれない。失敗すれば、前回以上の苦痛はないだろうけどね」
 成功? 失敗? 一体どういうことなんだ。何か大がかりなことをするつもりなのか?
 強烈な不安が胸に鉛を落とし、僕は逃げ出してしまいたくなった。
 それでも春菜さんには、それをさせない何かがあった。
 僕をこの場所から引き離さない引力のようなものを持っていた。
 それは間違いなく彼女から発せられていて、それは間違いなく、僕には抗いようのない力。
 信じたくないし、簡単に信じられるものではないけれど、春菜さんにはそういうオーラがあった。霊的とも言える……いや、神秘的とも言えるオーラが。

 

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