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ノンジャンル

風子

   

 風子と晴男の出会いは高校の入学式。誠、武、風子の幼馴染三人組に晴男が割り込んだ。
 晴男は父の転勤がきっかけで愛媛から東京に引っ越してきた。柑橘畑に囲まれ、緑の香りとせせらぎの音を聞きながら育った晴男には、この街の工場の油の匂いや、排気ガスの匂い、ドンカン、ドンカンと鉄を叩く騒がしい音や、気短な人々の鳴らす車のクラクションの音が聞こえる街の雰囲気には馴染めずにいた。
 教室の窓際の席から外を眺め耳を傾けると、愛媛の中学校では風が草木に当たる音や、鳥のさえずりが聞こえたものだが、こちらではガンガンと鉄筋の当たる音や車のエンジン音しか聞こえない。東京にしては高い建物の少ないこの土地で目立つのは高速道路であり、その上を走る車を見ると幼い頃に見た未来が描かれている漫画のようにも見えるが、地上を見下ろせば古い一軒家ばかりが建ち並び、その絵面はとても滑稽で不格好だ。
 外で鳴り響く騒音を聞くくらいなら音楽でも聴いていたほうがマシだと思い、鞄からMDウォークマンを取り出しイヤホンを付ける。再び外を眺めていると、隣の席に座る風子が晴男の肩を叩いた。
「ねぇ、音、凄く漏れているよ」
 イヤホンを外して、そこから漏れている音に気が付いた晴男は慌てて音を止める。
「ポルノグラフティ?」
「えっ、ああ、そうだけど……」
 趣味の悪い音楽を聞いているわけではないが、なんだか自分の恥部でも見られたように恥ずかしい。
「私も、ポルノ大好きなの」
「ああ、そうなんだ」
 それが、風子との初めての会話だった。
 誠と武は、いつも風子を取り巻くように三人で登校していた。校内でも休み時間になれば、いつも風子の席に集まり、三人でケラケラと笑いながら話をしている。
 その隣で晴男が音楽を聞いていると、その姿が一人ぼっちで寂しそうに見えた風子は、晴男に話し掛けた。
「ねぇ、また、ポルノ聴いてるの?」
 晴男はこの三人と親しくなりたい訳でもないから風子の話を無視していると、その態度を気に食わないと思った誠と武は、晴男に絡みはじめた。
「前から気に食わなかったけど、おまえ何だ、その態度」
「風子が話し掛けているだろ」
 窓の風景から目を背けると、目の前に誠と武の姿。愛媛の中学校では少しばかりやんちゃだった晴男は、二人に絡まれると面倒くさそうに溜息をつきながら、イヤホンを外して席を立ち上がった。
「だから何だ、お前たちをシカトしたわけじゃないだろ」
「何だと、お前ちょっと来い」
「ちょっと、やめなよ!」
 風子が誠と武の頭を教科書で叩くと、二人はしつけを受けた犬のように大人しくなる。誠と武は『ギロッ』と晴男を睨みつけると、すっきりしない顔つきで自分の席へ戻った。
「おい、お前ら、そっちから喧嘩売ってきたんだろ」
「ごめん、高杉君。あの二人も私の為にしたことなの。本当にごめんなさい」

 女に丸め込まれたようで腹の虫が治まらないのは晴男の方であり、放課後になると校門で誠と武を待ち伏せる。駐輪場からキャッキャキャッキャと女子の笑い声が聞こえたと思うと、誠と武は自転車を押しながら風子を連れて歩いてきた。
「あれ、高杉君。どうしたの?」風子が晴男に話し掛ける。
「よお、誰か待っているのか」
 さっきまでのことは忘れてしまったように笑いながら話す誠に、晴男はどうも調子が狂う。おまけに風子がいれば、自分だけ大人気なく怒っているように見られるのも癪な話だ。
「お前、もんじゃ焼食い行くけど、行くか」武が晴男を食事に誘う。
「もんじゃ焼?」
「なんだ? お前、食ったことないのか?」
「店があっても、入ったことがない」
「そうか。じゃあ、食いに行こう」

 

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