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風子

   

 晴男と風子は、毎日二一時を過ぎた頃になると晴男の家の裏にある公園でひっそりと会う日々が続いた。風子が吐く白い息が、晴男には二人で隠れて会っていることのモヤモヤに見えて罪悪感が強くなる。
「ねぇ、私と晴男は付き合っているのかな?」
 誤魔化しながら今の時間が続けば良いと思っていた晴男にとっては、痛恨の言葉。
 晴男にとって風子の存在は誠や武と違い、愛して止まない女性でしかない。しかし、その風子を彼女とすることはあの二人への裏切りにも感じる。そこにあるから良い物を独占欲から犯してしまう罪のようなこと。

 春ならば、桜の枝を折り、部屋の窓際に飾るようなこと。
 夏ならば、川辺で手の平に止まった蛍を、両手で包みこむようなこと。
 秋ならば、紅色染まる楓から、紅葉の葉を取り栞にするようなこと。
 冬ならば、雪景色の野原に足跡を付け、釜倉を作り温まるようなこと。
「なぁ、俺は風子のことが好きだ。でも、今は四人でいることが楽しい。だから高校を卒業したら付き合わないか? それまで俺は風子を想いつづけるよ。そして、その時は結婚しよう」
 風子と交際すれば、誠と武がいつも傍にいることが煩わしく感じてしまうだろう。
 その態度が表になれば、二人はこの交際を軽蔑するに違いない。そして、いつの日か四人は離れてしまうだろう……そう考えると、風子を独占するという選択を晴男は選ぶことができなかった。
「そっか……。そうだよね。わかった、約束」
 小さな手から細い小指を出した風子は、にっこりと微笑みながら晴男を見つめた。

 
 それから時が経ち、高校三年生の二学期になった頃、晴男は少しでも早く風子と暮らす為に、大学へは進まず就職することを希望していた。
 これまで二人で愛を育んだ訳ではないが、晴男の気持ちはあの頃と変わらない。
 愛の言葉を掛け合うような事はなくとも、相手を想い続けることはできる。
 三年になると誠と武は大学受験を目の前にして忙しく、これまでのように四人が揃い遊ぶような機会も少ないが、登下校くらいは、いつも四人でいることに変わりはない。
 三年生に上がった頃のクラス替えにより、風子だけ別のクラスになってしまったことから、風子は卒業してから進学するのかは分からない。聞いたとしても、秘密だと言われるだけ。
『きっと誠と武に知られないように、一緒に暮らすことを秘密にしているのだろう』晴男はそう思っていた。

 ある日の昼休み、購買で買ったパンを齧りながら誠が呟いた。
「風子の奴、いくら夢だと言っても、何でわざわざ北海道の大学なんて受けるんだろうな」
「あぁ、でもガキの頃から牛や馬を見てはしゃいでいたからな」
「まぁ、そもそも、こんな汚ねぇ空気や油臭い街があいつには合わないか」
 風子は、母方の実家が牧場であることにより、幼い頃からそこでの生活に憧れていて酪農家になることを夢見ていたらしく、高校を卒業したら北海道に引越し酪農を学ぶと言っていたことを知った。
 今ではすっかり四人一組と思っていた晴男にとって、自分だけ知らない風子がいたことに結局は孤立していたのだと感じる。
 一体、自分は今まで何を守ろうとしていたのだろうか。彼等には、風子と育んだ時間があるが、晴男は風子への想いを胸の内に潜めていただけで、知らない風子ばかりがいる。
 風子の本当に好きな食べ物は何だろう。
 風子の本当に好きな音楽は何だろう。
 風子の夢って何だったのだろう。
 あの時、風子とした約束は何だったのだろう……

 

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