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ノンジャンル

風子

   

 それから十年が経ち、風子が東京の実家に帰ることから、久々に四人で集まることになった。八年前に実家を出た晴男は、久しぶりにこの街に降り立つ。駅の改札を抜けると誠と武が待っていた。
 駅前の街並みは相も変わらずに見えるが、夕方の商店街に、ポツリ、ポツリとシャッターが閉じている店が見える。駅前にある三階建てのスーパーは綺麗に改装されていて、その先を見ると高速道路より背の高いマンションが巨塔のように立っている。
 三人は改札の前で風子を待っていると、面影少しも変わらぬ風子が待ち合わせより五分遅れて改札を抜けるのが見えた。
「ごめん、遅れて。久しぶり」以前と変わらぬ笑顔で風子が手を振る姿が愛くるしい。
「じゃあ、久々にもんじゃでも食いに行きますか」

 学生の頃、よく四人で訪れた店に入ると鉄板が填め込まれたテーブルへ座る。壁から匂う油の香りは変わらず、夕方のドラマを眺めていた小さなブラウン管が置いてあった所には、平たい画面が狭苦しそうに収まっている。店員からおしぼりを受け渡されると、晴男は風子の左手の薬指に銀色の指輪を見つけた。
「結婚したのか?」晴男が問い掛ける。
「ああ、うん。大学の時に知り合った先輩でね、二年生の頃から付き合い始めたんだけど、去年結婚したの。彼の家が酪農家でね、大学卒業してからも働かせてもらっていて、そこで牛の世話もしているから。牛たちのことも大好きだし、何だか大勢と一緒に結婚した気分だよ」
 その話を聞いて、誠と武は笑っていたが、晴男は女というのは夢と現実をきっちりと区別して、平行に歩むのだと気が付いた。

 あの頃の風子への想いは、淡い恋だったのだろうか……
「晴男は、元気しているの?」
「俺か? 俺はまだ、いろいろ半人前のままさ」

『愛』とは、人がゆっくりと歩きながら、後ろを振り返ろうとする心情。あの時の僕は、風子の目の前にかかる霧の中に隠れていて、彼女の前に僕は見えなかったのだろう。

 僕も霧の中を歩きながら、後ろを歩く彼女に手を差し伸べることができなかった。

 あの時気が付いていたら、今頃は風子と暮らしていたのだろうか。

 春ならば、桜並木に吹くそよ風の中、そっと手を差し伸べるように。
 夏ならば、海辺に吹く潮風の中、強くその手を離さぬように。
 秋ならば、紅葉が揺れる秋風の中を、優しく手のひらで包むように。
 冬ならば、木枯らしの風吹く街並みを、彼女の手を取り、温めるように。
 いつでも、その風を愛おしく想いながら。

 

 

-ノンジャンル


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