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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第五章「雪密室の氷解」 1

   

蒼野は礼拝堂へ向かった。
同時期、犯人も礼拝堂にいた。
最終決戦の火ぶたが切って落とされる……。

 

 
 午後五時五分前。吹雪はすっかり止んでいた。俺は礼拝堂の聖母像前に立ちながらある人を待っていた。
 その人物は、午後五時きっかりになると、約束通りに現われた。いや、約束したというよりも俺が「死霊術」のトリックで呼び出したのだが。
「蒼野先生……。そこで何をしているんですか?」
「死霊術ですよ」
 俺はその人物を一瞥しながら、携帯のディスプレイを見た。
 お互いに携帯を見ながら話を始めた。

『死霊の魔剣師様

 午後五時に礼拝堂の聖母像前でお待ちしております。
 あなたが誰であるか、そして三つの事件のトリックを全て見破りました。
 もうこの事件はこれで最後にして終わらせましょう。

死霊の小塚英吉』

 俺は小塚先生の携帯を持ちながら、死霊の魔剣師は小雨さんの携帯を持ちながら。犯人は自分が仕組んだ死霊術のトリックが跳ね返って来たので不機嫌だった。
「今から、雪銀館で起きた連続殺人事件の真相究明を始めようと思いましてね」
 俺がそう言い出すと、犯人はニヤリと冷ややかに笑った。
 しかし何も起きなかった。
 いや、起きるはずがなかった。俺が先回りしていたから。
「ハハハ……。宮沢先生を殺害するための『聖なる裁き』のトリックを俺に下すつもりでしたか? 聖母様はあなたには微笑みませんよ」
 約束の時間が午後五時。場所は礼拝堂の聖母像前。犯人が機械的な遠隔殺人トリックの名手だと知っていたので、やつが何かを仕掛けてくることはわかっていた。案の定、午後五時五分頃にセットされた爆弾が聖母像の頭の空洞部の中に仕組まれていた。俺は数時間前に礼拝堂に来て最後の罠を解除していた。
 犯人はそれを悟ったらしく、懐から拳銃を抜き出して俺に銃口を向ける。
 おそらく、資料室にあった改造エアガンのスミス・アンド・ウエッソンだ。
「動くな! 撃つぞ!」
 礼拝堂の祭壇付近右前の座席の陰から古山警部が立ち上がり、犯人に拳銃を向けた。古山警部は警察の人間なだけあり、おそらく本物の拳銃を手に持っている。警察官が携帯しているシグ・ザウエルP230だろうか。
「蒼野の旦那。こいつを取り押さえるか?」
 礼拝堂の祭壇付近左前の座席の陰から弟切さんが立ち上がり、手には縄を持っていた。
「今だ! 黒井さん!」
 入口付近に隠れていた黒井さんが礼拝堂に入ってきて、勢いよくドアを閉めて立ちはだかろうとした。
 宮沢先生もそれに続いて一緒に立ちはだかった。
「覚悟してくださいね。もう逃げられませんから」
 双馬さんが祭壇の下から顔を出した。
「さあ、水波先生。いや、死霊の魔剣師。それとも北条さんと呼ぼうかな。まあ、どれでもいいよ。事件を終わりにしようか」
 水波彩はこれが最後の戦いだと覚悟を決めたかのように、俺を睨(にら)んできた。

 

(続く)

 

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