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ショート・ショート

起承、転結せず。

   

喫茶店は小宇宙。
よくよく見てみると、面白い光景が広がっているものなのだ。

 

職業柄、よく喫茶店にいく。
なんの職業かと聞かれれば無職だが。
無職だから時間を果てしなく潰さなくてはならなくて、よく喫茶店に行くのだ。
ある日、いつもの喫茶店のいつものテーブル席に迷惑がられながら座っていると、カウンター席にいる一人の女が目に入った。
歳は二十歳前後だろうか、とにかく若い女だ。
女が目に止まったのは、その女が漫画雑誌を読んでいるからだ。
しかも、有名な「少年漫画」雑誌を。
普通、あの辺りの歳の女性が購読する雑誌というのはファッション関係とか、詳しくは分からないが、そういう雑誌ではないだろうか。
珍しく思い、しばらくぼうっと視界に入れていた。
すると、入り口からツカツカとゴツい男がやって来て、辺りを見回してから、その漫画雑誌を読んでいる女の横に座った。
知り合いなのだろうと、しばらく見ていたが、一行に会話もしないし、目線を合わせたりもしない。
単に座る席がそこしかなかったのだろう。
まあ、原因は私がテーブル席をいつまでも占領しているからなのだが。
今度は男の方をぼうっと眺める。
いかにも肉体労働者系の体格で、建設関係で前線で働いていそうな「ドカジャン」を羽織っている。
しかし、見ているとその懐から、
「ドストエフスキー入門」と表紙に書かれた文庫本を取り出したではないか。
なんと不釣り合いな。
それにしても凄いツーショットが成立している。
方や、成人女性が少年漫画雑誌を夢中で読み。
一方、ドカタ風の男が、厳めしい顔を更に厳しくして小さな文庫本を穴が空く程、熟読している。
こんな光景が見られるのだから、テーブル席を占領する仕事も悪くないな。
と、私は改めて思った。

しかし、私はこの後、程なくして就職してしまうのだった。

 

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