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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二十六>

   

退院祝いだと、京子が熱心に料理を作ってくれた。こんな些細なことを俺はとても幸せだと感じる。すると金丸から連絡が入った。廣瀬についての新しい情報だ。

 

 
 やはり自分の家は居心地が良い。病院では山根の計らいで個室だったが、自分の家とは比べられない。今日からはまた京子の美味しい料理が食べられる。俺はラットとピンポン球で遊びながら自由を満喫していた。
 京子は早速退院祝いだと、熱心に夕飯の準備に勤しんでいた。草鍋と云うらしいが、何やら土鍋に鶏肉、鶏ガラ出汁、鷹の爪、にんにくを浮かべ、そこにとりあえず緑色の野菜を山の様にぶち込んでいた。水菜に菊菜、小松菜、モロヘイヤ他、緑の草。成る程、これこそ草鍋だ。そして少し濃いめの醤油ダレを温め、そこに生卵を割って入れる。優しく溶かして、鍋に入れた豚肉、牛肉に火が通ったところで、特製卵ダレにつけて貪り食う。芋焼酎との相性が抜群だ。卵が肉に絡んで、醤油の味が甘くて濃厚になる。〆は蕎麦だ。あらかじめ湯がいてあった蕎麦を放り込んで温まれば食べ時だ。蕎麦に絡まる少し白く温まった卵の白身が蕎麦を手繰る手に拍車をかける。
 先ず何よりの幸せは、こうやって好きな人と鍋をつつける事だ。ラットもテーブルの上でかぼちゃの蒸した物を美味しそうに頬張っている。こうやって楽しいひと時を過ごせるのは至極の幸せだ。
 マヤの一件で俺達は崩壊するかもしれない。と思ったが、先日のマヤの母親との話で、より京子との距離が縮まった。京子は少し酔っ払っている様で、いつもより楽しそうにキャッキャと笑っている。そんな光景がとても微笑ましかった。
 そんな大切な俺のひと時を、携帯電話の着信音が奪い去った。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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