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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode17

   

 ケンさんの告別式で、それぞれの想いが交差する……。

 本格的ミステリー44口径より愛を込めて!!

 

 そして、第一次コーラカル・アヂーン大量虐殺事件発生。意識を取り戻したのは、病院の集中治療室、事件発生から一ヶ月以上が経過してからだった。
 意識を取り戻したからといって何が出来るわけでもなく、身体中に繋がれた管を見つめ、途切れる事のない痛みと吐き気に苦しめられた。ようやく眠れたかと思えば、それは事件の夢だった。夢の中で俺は、何度も何度も他人の血を被り、玲奈に裏切られ、殺された。寝ても覚めても、そこには地獄しか無かった。
 やがて管が外れ、個室に移されたので死のうと思った。何度か自殺を試みたものの、尽く邪魔が入った。血まみれになっても、死ぬ事を許されなかった。今度は管ではなく、拘束帯でベッドに縛り付けられた。定期的に精神安定剤が投与され、それが毒であることを心から祈った。
 祈りは届かず、俺は惨めに生きている。
 ふと窓の外に目をやると、秋が来ていた。看護師に窓を開けてもらうと、懐かしい風が俺の頬を撫でた。
 俺は、何故死のうとしていたんだと聞いた。あと、何故ここにいるのかとも聞いた。質問された看護師は、驚いたように病室を飛び出していった。何故俺が、縛られているのか疑問に思った。暫くすると看護師が、医者を連れて病室に来た。日向野先生だ。日向野先生は、俺の質問に答えず、俺に俺の事を質問した。
 俺って、誰だっけ?
 取り敢えず拘束帯を外して欲しいと頼んだのだが、直ぐには外して貰えなかった。実際、拘束帯が外れたのは退院一週間前だった。
 退院当日、加藤健作と名乗る四十歳後半ぐらいの捜査官が、俺を迎えに来た。これから俺の世話を焼いてくれる人らしい。何も思い出せないから家に帰ることも出来ないので、俺は仕方なくケンさんに付いて行く事にした。どうにでもなれ、と言った感じだった。
 ケンさんは、とても親切親身に色々と俺の世話をしてくれた。先ず、俺に藤代大雅と言う名前をくれた。ここで生活するようにと、俺に与えられたと言うマンションの一室へ案内してくれた。そして、今後の為にと訓練所に連れて行ってくれた。訓練所では、午前中は薬学、法学についての講習を受け、午後からはもっぱら射撃か武道の練習だった。
 何の為にこんな事をしているのかさっぱり解らなかった。もっと大切な事があったような気がしていた。でも、どうしても思い出せなかった。また病室に閉じ込められ、拘束されるのが嫌で、死のうとも思えなかった。
 本当に辛く、最初の数ヶ月は毎晩泣いていた。そんな時は決まって、ケンさんが励ましに来てくれた。
 三ヶ月前、訓練終了と共にケンさんに連れられて、現在の住居である家とガンショップに来た。移動中の車内で、これが入院前の個人情報だと、薄っぺらな封筒を渡された。
 住居のリビングでは、望月陽太と言うケンさんの後輩捜査官と、魔夜と言う女性が先に来ていた。突然、ケンさんから彼女とルームシェアするように告げられた。詳細は、封筒の中の書面に書いてあるからと。そして捜査官二人は、さっさと仕事に出て行ってしまった。
 お互い、黙ったまま封筒の中身を開いた。本名、本籍、性別、生年月日が記載されており、現在の偽名と共に魔夜の事と今後の身の振り方が書いてあった。
 俺は、ずっと自分以上に不幸な人間がいるのだろうかと思っていたが、魔夜もまた同じ様な運命を辿ってきたのかと思うと、急に自分が恥らしく思えた。もう泣けないと思った時、彼女は笑顔を見せながら昼食を作りにキッチンへ入って行った。特別美味い料理ではなかったけれど、こんな状況ですら笑える彼女となら、なんとか持ち直す事が出来るかもしれないと思った。
 解放された暁には、もう一度信じた道を歩き出せるんじゃないかと思った。
 記憶が戻った今死のうと思わないのは、病院に閉じ込められるのも拘束されるのも嫌だからじゃなく、魔夜がいるからだ。
 死ねば、“独り”になるからだ。

 もう嫌だ、独りになるのは。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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