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ノンジャンル

レギュラー・バット(中)

   

素振りと偶然のヒッティングからレギュラー・バットの力が本物だと確信した高野は、ここぞという場面で使おうと決意する。

その場合問題になってくるのは、自分がバットの性能を活かし切れるかということであるため、高野はレギュラー・バットと同じ形をした特注バットを何本も作らせ、練習を積んでいった。

そして最後の入れ替え戦当日、レギュラー・バットを持った高野は、主将、西浦との一打席勝負に臨むことに。

勝負の結果は果たして……?

 

「ほ、本物だ、こいつは……!」
 改めてバットを握った高野は、自分の声と両腕が震えていることに気が付いた。
 もはや疑う余地はない。このバットは紛れもなく本物だ。
 道端の小石でさえあれほど飛ぶのだから、反発するように作られている野球のボールならどうなるかは明らかだ。
 高野の脳裏に、球場で人生初の本塁打を飛ばしている自分の姿がありありと浮かんだ。
「ホームラン」と言えば、バッティングセンターの表示板にヒットした記憶しかない高野でも、これを使えば簡単に打つことができるだろう。
 また、形状からして中心から先端までならどこに打っても芯に直撃したのと同じ効果が得られるはずだ。
 まさに、全ての打者が喉から手が出るほど欲しがるバットだと高野は直感した。
 はるか彼方の恒星でしかなかったプロ入りという夢が、間近に迫ってきたような気さえする。
「これで、俺も……!」
 高野は全身に力を込めて、バットを最大限使っていこうと決意した。

 翌日、高野は部の練習を休み、実家の近所にある「EXバットセンター」に来ていた。
 バッティングセンターとしては中小規模だが、家が近いことと用具販売が充実していることが気に入り、高野は長い間「拠点」にしてきた。高校時代などは、年に百回以上も通い詰めたこともある。もっとも、利用料は小遣いでは到底まかなえる額ではなかったので、ずっと借りている形になっていたのだが、バイト先の景気が悪くなったこともあり、未だにその金を返せるめどが立ってはいない。
 正直、かなり足を運びづらくはあるが、「計画」のためなら仕方がないと、高野は店の中に飛び込んだ。
 まばらに人が入ったバッティング・ブースを抜け、ゲームコーナーと用具売り場を抜けてさらに奥に進むと、ガレージ兼社長室がある。
 店主の酒井 太郎が作業をしているはずだ。
「ごめん下さい」
 ノックと同時に大声を出すと、ややあって扉が開き、中から体格の良い気難しそうな、五十代ぐらいの男が出てきた。
 この店の主、酒井である。
 酒井はエプロンに飛び散った木くずを手で払いながら、ぶっきらぼうに声を発してきた。
「何だ、高野。まだ引退していなかったのか。息抜きに来たってなら歓迎するが……」
「すみません、酒井さん。色々と入り用なもので、バッティング料金の方はもう少し」
「まあ、いい。どうせ借用書もないんだ。就職してからの給料で払ってもらう。で、今日は何の用だ? そんな話でわざわざ顔を出してくるような柄じゃなかっただろ、昔から」
 酒井の言葉は辛らつだったが、拒絶の雰囲気はうかがえない。
 高校の頃からの借金を払えないで足を運びづらい立場の高野に配慮してくれているのかも知れない。
 だとすれば、いっそとことん甘えてしまった方がいい。
 高野は持ってきた図面を見せた。
「このバットを作って頂きたいんです。これがひょっとすると俺をプロに導いてくれるかも知れないんです」
「ほう……」
 最悪、すぐさま放り投げられることも覚悟していたが、酒井は興味深げな声とともに図面が書かれた紙を受け取った。
 講義をサボっている物理部の友達に頼み込んで、立体CGと各部位のサイズを記してもらったのだ。
 物理部の友人はまったく野球は知らないが、測定自体は極めて正確になされているはずだ。
 酒井は図面に視線を落とすと、何度か深く頷いてみせた。
 そして、しばらく経ったところでふいに顔を上げ、高野に向かって問いかけてくる。
「これ、お前が設計したのか?」
 どう答えていいか分からず黙っていると、酒井はもう一度深く頷いて続けた。

 

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