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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season4-7 END

   

 ヒントは、会社ならとうぜんのこと。出張はどうやって精算するかだ。
 御影も同様のことをしている。領収書と引き換えに経費で精算ができる。

 栗原はそこで金を持っていそうな身なりのいい男をターゲットにした。
 それが福留だった。しかし、福留とは因縁があった。栗原の人生を狂わせた会社に勤める息子である福留。しかし根源はその父親の社長にある。

 栗原の父親が同社の社員だった。経費の使い込みやインサイダーに手をつけてしまった福留社長。その責任を栗原の父に背負わせ解雇した。

 栗原の家庭は崩壊してしまった。その恨みを晴らすために、近づいていた。おもわくどおりの結末を福留親子にしてやった。

 その告白に御影の心は穏やかではない。なぜ、止められなかったのか、それが悔やみきれずにいた。

 様々な嘘を暴かれてしまった。栗原は探偵たちの前に屈した。自首をした栗原だった。その最後の後姿を御影は見送っていた。

 後日、森谷が警察に電話をかけた。栗原がどうなったかをたしかめるために。
 だが、森谷の耳は疑った。

“驚愕の結末”に、探偵はただ唖然となる。

「第四シリーズ完結」

 

 御影は息を吐いた。「それと、コンビニで買い物をしたとき領収書で精算し、あとで払い戻してもらえることを思い出した。それは金額の大小についてだ。コンビニエンスストアで買うこと事態、そんなたいした金額でもない。だが、毎日領収書をもらいひと月分となったら金額はでかくなる。もしコンビニエンスストアの合計額に、ゼロがひとつやふたつ多くついている領収書を精算させる人物をみつけたらどうだ、その人物をわれわれ探偵のように調査していく能力があったらどうだろうか。ストーキングされ、自宅を探られ、ついには日常の行動パターンまで調べ上げられたらどうなるか。そこまでわかればどこで勤務しているかもわかる。すると、社員のひとりがどれだけの収入があるかも想像で見えそうだ。企業の株価などでそれは見えてくる。経営がうなぎ登りなのか、下がりめなのか。それと比例して住んでいる立地や自宅がどういう建物かで、収入というものは見えてくる。人間というのは消費癖がある。そこで行動パターンが見えると消費というものがどういうところで買い物をしているかでわかる」

「むずかしいこというわね」栗原は首をかしげた。

「ようするに、“この男、金を持っている”」御影は答えをだした。

「そして、きみは福留を狙った。出張している行動などを知ることができれば、一人暮らしの部屋はもぬけの殻だ。正々堂々と入り口からはいり、らくに強盗ができることになる。一週間、ターゲットの行動が逐一把握できれば、いかようにも自宅への出入りは可能だ。どうにかして合鍵でも作ったりしたのだろう」

 栗原は御影をにらんでいた。

「いろいろ嘘をついていたようだが、運転免許証があれば、それら嘘を帳消しにでもできると思って、わざわざ免許を取ったのだろう。免許証は身分証明書を提示するときにいちばん信用性を勝ち取ることのできる公的証明書だ。なんといっても公安機関が発行しているからね。警察は疑うことない」

 栗原は視線をはずした。図星だ。

 御影はほくそえんだ。「彼氏の浮気を探偵のように自分で調査する、なんてことはぜったいにしないね。ただ監視のためだった。行動が手にとるようにわかれば、強盗の精度はあがる。相手のことを調べ、どこで勤務していて、身なりや身につけているアクセサリーや時計。食事をする場所は一流レストランなどを利用しているか。支払いはカードが現金か。財布事情まで観察する。きみの優れている部分は、そういう“盗み目”が超一流だったってわけだ」

「そう、よくそこまで発想が浮かぶものね」栗原はいった。

「もう、嘘はむりだよ。きみがどうやって福留の部屋に侵入したかは、おそらく警察が調べればわかる。あの高層マンションも監視カメラはあった。すがたを隠していながらも、きみはまちがいなく映像にうつっているはずだ」

「わたしばかり嘘つきよばわりしているけど、あなたも嘘つきじゃない」

 御影はうなずく。「おれは、いやおれたち探偵はだれかを傷つけたりしていないよ。きみとちがってね」御影は栗原の顔をじっと見つめていた。

「そう、ね。たしかに」目を合わせられないでいる栗原だった。小柄の彼女がもっと小さくみえている。儚く淡く、このままでは泡のようになって消滅しかねないと思ったほどだ。

「おれの要望としてはきみには自首をしてもらいたい。そうしなければならない。自覚はあるかい?」御影はなだめるようにいった。

「わかる。わかっている──」そこで栗原はなにもこたえなくなった。

 水桐が近づいてきた。「いいかしら、ここであなたを逃しても、また追い込むことはできる。わたしたちの探偵の手腕と情報網を侮らないことね」

「まいったな。そう、あのひと警察に届出たの、まさかそれはない、と思ったけど。世襲という脳なしだからそういう行動になったわけね」栗原は想定外の顔をしていた。

「福留のことか、自宅が荒らされたことで、警察に被害届をださないやつはいないよ」御影はいった。

「いえ、そうじゃないの。あの男の自宅を荒らしていたら、わかったの。警察に被害届なんてぜったいにだせないって。もともと公にできない書類やらが、いっぱいあったから、もし被害届だしたらあのひとは自分の人生に終止符打つことになるわね」栗原は悪女的な笑みを浮かべた。

「いいかしら」水桐がいった。「女の武器は嘘をつくことよ。でも、奈落の底に叩き落すことはしちゃダメね。あなたの“ハニートラップ”は甘かったってわけ」

 御影も、同意するように栗原をみていた。

「そうね、ごめんなさい」栗原は頭を軽く下げた。

「どうするのだね?」森谷が背後からそっと声をかける。

 御影は考えている。おそらくこのままではらちがあかない。でも警察にひっぱりだすのも探偵としてのラインを超えている。
 警察の仕事だ。みすみす犯罪者を追い詰めておきながら逃すのは罪になる。それだけは氷室探偵事務所として看板に傷をつける。

 やはり、同行するしかない。ひとりよりはまだましだろう。と御影は思考をめぐらせた。

「きみの背後でおれはついていくよ。背中を押してやるさ。振り向けば影はどこまでも伸びている。切り離そうとしても足元からつながっているんだからさ」御影は優しさをこめていった。

「そうね。そういうのもわたしたち探偵というより、ひととしての行いよね」水桐がほほえんでいた。

「共に行こうではないか。ひとりよりはいいだろう」森谷も絶やすことのない微笑みを浮かべていた。

 栗原は涙を流した。頭をふかぶかと下げて詫びる。「お騒がせしました。お願いします」

 御影は栗原のスニーカーから雲田の追跡型シールを剥がした。

「もう足枷はないからって、逃げないでね」微笑む御影。

「うん」やっと笑顔を浮かべた栗原だった。

 

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