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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二十八>

   

 俺達は引っ越す事にした。今の生活が自分の身の丈に合ってない事がようやく分かった。引っ越し先を決め、俺は久しぶりに夜の街へと出て行く……

 

 俺達は駅の近くの不動産屋に来ていた。俺に見合う物件。これからの俺に見合う物件……駅から徒歩二十五分、築三十年のボロアパートが目に付いた。家賃月四万円。間取りは畳床の2LDKだ。俺の部屋と京子の部屋、風呂とトイレは別。好条件だ! 俺達はその物件を見に行くと、直ぐにそこに決めた。引っ越しは明後日だ。
 その夜、俺は自分の持っているヤクを処分する為、久し振りに夜の街に出た。電話で会う約束をしていた奴がいる。俺が売人を始めた頃、運び屋として働いていた奴だ。今や俺をも凌駕する麻薬王になっている。待ち合わせ場所は新宿のとあるクラブのVIPルームだ。俺はあえて十分遅れで到着した。
「斎賀さーん! お久しぶりですっ。お変わりない様で」
「あぁ、お前の方はすっかり変わっちまったけどな」
 こいつは八郎という。勿論偽名だろう。両手に安い女を抱えて、前まで出ていなかったタップリとした腹をふてぶてしく出している。
「はははっ、それは言いっ子無しですぜ。それでどうしました? しばらく商売やってなかったみたいですけど?」
「そうなんだ、俺、このこの世界から足を洗おうと思うんだ。守るべきものができた。こうやって浮き草なんてやってられない。そこで頼みがあるんだ」
 八郎はニヤリとやらしい笑みを浮かべて前のめりになった。
「余った物の回収ですかい?」
「その通りだ。葉っぱが約三○グラム。メスが一キロ、コカインが一・二キロ。どうだろう、安くていい。引き取ってくれないか?」
 八郎はふんふんと頭の中で計算しているらしく、眉間にしわを寄せて、しきりに膝を揺すっている。
「分かりました。斎賀さんには恩がある。それに斎賀さんの物は上物だ。葉っぱが二十万、メスが三千万、コークが三千五百万、計六千五百二十万でどうですか?」
 問屋価格だ。かなり足元を見られて居る事は分かっていたが、正直値段などどうでも良かった。ただ家に有るヤクを全て処分したかったのだ。
「分かった。それでいい。感謝するよ。受け渡しはいつもの所でいいか? それともお前んとこまで持って行こうか?」
 八郎はパンと手を叩き、何か良いアイディアでも浮かんだような表情をした。
「言ってしまえば、これで斎賀さんとはお別れになる。だから初めて俺達が出会った場所ってのはどうですかい?」
 初めて出会った場所……あぁ、あそこか。あそこなら人気がなくて都合が良い。
「分かったよ。じゃぁ午前三時半、例の場所で」
 そう言い残し俺はクラブを後にした。
 

 

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