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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

『蒼色推理』−雪銀館事件− 第五章「雪密室の氷解」 3

   

真相が究明され、犯行動機を語り出す犯人……。
犯人は何を思ったのだろうか、凶器を手に、逃亡を図る……。
しかし、ここからどうやって逃亡するのだろうか?
まさかの可能性を思いついた蒼野は、必死で犯人を止めるため雪山を走り出す。

 

 
 犯行を認めた水波先生に対して、俺は動機の話を切り出した。
「お父さんの復讐ですね? 北条京平さんの……」
 水波先生は目を丸めて返した。
「どこでそれを知ったかは知らないけれど、どうやら全てをお見通しのようね。その通りよ。北条京平は私の父。私は、父のその当時の恋人の娘よ。結婚はしていなかったし、人知れずの妊娠だったので、大江戸たちは私のことは知らなかった。父が死んだ後、葬式にも行かせてもらえなったほど北条家とは付き合いが絶えていたので、変に目をつけられなかったわ。父が大江戸たちに殺害されたという噂を聞いたのは大学生のときだった。
 そう。父の小説を盗作して、それによって富と名誉を築き上げ、父を殺害したこいつらをこの手で殺そうとかなり前から計画していたのよ」
 水波先生は宮沢先生を険しく睨みつけていた。
「これは五年前のことだったわ……。私の描いているイラストが世間に認められてきたある日、大江戸の編集者、小雨から依頼が来たのよ。その依頼で私は大江戸の『殺霊事件』の挿絵を描いたことが付き合いの始まりだったわ。
 大江戸は仕事で知り合った人たちをこの自慢の雪銀館へ呼んでパーティをやるのが好きだったわ。私も、以前にも有識者たちを集めて何たらのくだらない会議に参加したわ。その日の夜、酔っ払っていた大江戸と取り巻きの小雨、小塚、宮沢が応接間で話しているのを聞いてしまったのよ。『死霊の魔剣師』は盗作だったって……。しかも私の父からの……。
 私は殺さなくても、大江戸の告白を雑誌に掲載するとかして、何かできないかと色々と策を練ってはみた。だけれど大江戸相手だと誰も動いてくれないし、動いても金と権力で潰すような人間よ。これはもうだめだと思ったわ。
 でもある日、悪魔の声が囁いたのよ。探偵小説家であった父の名の下に、探偵小説のような不可能犯罪で、父を象徴する『死霊の魔剣師』の名を語り、大江戸自慢の館で連続殺人事件を起こしてやろうって……」
「水波さん。今からでも遅くない。俺たちと一緒に大江戸一派を壊滅させよう。俺は例の大江戸の違法賭博場の件を追ってここまで来た。大江戸の悪事を白昼に暴いて、大江戸一派を更生させるんだ!」
 弟切さんが彼らしい反論で叫んでくれた。
「ありがとう……。でも、こうなったらもう遅いわ……。私は、あとひとり、どうしても殺さないといけないやつがいるから……。そうしないと、死んでも死に切れないから……」
 水波先生はそう言いながら銃口を宮沢先生に向けた。
「親の仇を皆殺しにすることがあなたの望みか? 何か間違っていないか?」
 俺の叫びとは裏腹に、水波先生は宮沢先生ではなく古山警部を撃った。
「ツッッッ――――」
 古山警部の腕から血が零れていた。手にしていた拳銃は床に落としてしまった。
 そのすきを突いて、彼女は礼拝堂通路側のステンドグラスに体当りして突き破り、外へ逃げてしまった。
「双馬さんに黒井さん、古山警部を頼む!」
 俺はそれだけ言い残すと、資料室から失敬してきたコルト・パイソンを懐から出し、水波先生を追った。弟切さんと宮沢先生が後からついてきた。
 館の駐車場前まで来た。おそらく、水波先生はここで銃撃戦をやるつもりだろうか。あるいは館の本館へ戻ってその中でやるつもりだろうか。
 空気に鋭い音が走った。
 俺の後ろにいた宮沢先生が腹を抑えながら鈍い叫びを上げて倒れた。
 どうやら、腹を撃たれたらしい。
 俺は彼女を館に誘導して館内で捕らえるために角度を計算して、SUZUKIの白いアルトの窓ガラスを撃って割った。
 その誘導が失敗したのか、作戦のつもりか、水波先生は山道に逃げた。
 え? 山道って? そのさきは、ロープウェイだよな? でも今は吹雪だったこともあり、動かないよな?
 って、まさか?
 俺は必死で駆け出して追いかけた。
 弟切さんは俺についてきた。
 騒ぎが聞こえてか、礼拝堂から双馬さんが出てきて、宮沢先生のところへ向かった。
「水波先生、そっちに行ってはダメだ! 早まってはダメだ!」
 走るたびに力が奪われるような雪道を必死で走って追いかけること十分。
 俺たちはついに、ロープウェイ乗り場まで来た。
 乗り場の先には、白銀の奈落の谷が広がっていた。
「近づいたら撃つわよ!」
 水波先生は威嚇のつもりか、ロープウェイ乗り場付近の木々を撃った。
 木々からは残雪がどっさりと落ちてきた。
「そっちもそれ以上動いたら、撃つぜ!」
 俺はコルト・パイソンの銃口を水波先生に向けた。
 じりじりと水波先生に近づいた。
 手を差し出そうとした。
「蒼野先生……。ありがとう……」
 彼女は俺に微笑んで礼を言った後、白銀の谷の底へ落ちて行った。
「水波先生! 死なないでくれ!」
 俺は落ちる彼女を掴もうとして、掴むことができなくて、俺もバランスを崩して落下してしまった。
 落ちているとき、もはやこれまでか、と覚悟していた。
 奇跡的にも落下中に俺のコートが谷際に生えていた枝にひっかかった。
「おーい! 蒼野の旦那ー! 大丈夫か? 今、助けてやるからな!」
 弟切さんは、先ほど礼拝堂で水波先生を捕獲するつもりで持っていた縄を使って、俺がひっかかっている枝先まで縄を垂らしてくれた。
 それにつかまって引き上げられ、俺は何とか一命を取りとめた。
 冷めた青空をふと見上げると、警察らしきヘリが二機飛んでいた。
 俺たちは助かったのか……?

 

(続く)

 

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