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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二十九>

   

 八郎にこっぴどくやられてしまった俺は、自分の選択した道に疑問を感じ始めていた。しかし京子の助言一つで、俺の迷いは消えたのだ。

 

 
 俺は玄関の前でうずくまり、自分の情けなさに酔っていた。それは自分が選択した道が、本当に目的地に繋がる道なのか不安になったのだ。  
 左の瞼からの出血がまだ止まらない。ジャイアンに殴られたのび太はいつも片目に青痣を作っていたが、こんなに痛くて恥ずかしい思いをしていたなんて、のび太は優しくて強い心を持っているのだなっと感心している。
 ドラえもんの中に登場する人物は、一見弱そうに見えても皆んなどこか心に芯を持っている。揺るがない太い幹だ。特に映画版でのジャイアンは素晴らしい。仲間を想う気持ちを人一倍持っている。大人になったジャイアンは立派な人間になると思う。俺はそんな立派な人間になれるのかな? 人に虚無の夢を売りさばいてた俺が……しっかりと心に太い幹を持った人間になれるのかな……
 気が付くと俺は夏の低い空を仰いで泣いていた。声を上げて泣いていた。
 玄関の中から音がする。鍵の開く音が聞こえ、朝餉の香りと共に扉が開いた。
「どうしたの! こんな時間に? 部屋にで寝てるとばかり思って……どっ、どうしたのその怪我? 血が出てるじゃない。大丈夫? 立てる? さぁ、中に入ろっ」
 京子が慌てて俺を担ぎ上げた。滴る血は涙と混ざって紫色になっている。京子に支えられ、ソファーまで足を引きずってなんとかたどり着いた。力が抜け、ソファーに倒れこんだ俺を見計らって、救急箱を手に京子が隣に寄り添った。箱を開け、カーゼとマキロンで瞼の傷口にそっと触れる。激痛が走り俺は顔を背けた。
「ごめん、痛かった? でも泣く程の事じゃないでしょ」
「なぁ、京子……俺が選んだ道は正しかったのかな? 俺、ちゃんとした人間になって京子に見直してもらいたかった。でも今すごく迷っているんだ。本当にこれが正解だったのかなって」
 京子はガーゼを小さな丸いテーブルの前に置き、優しく、なだめる様な口調で言った。

 

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