幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode19

   

 ケンさんの遺留品になってしまった銃を片付けていると、魔夜は違和感を感じて……。

 本格ミステリー44口径より愛を込めて!!

 

 コンクリートの無機質な室内に設置された愛想のないコンクリート製の横長のテーブルに、両サイド一定の間隔を空けて隣と仕切るための壁が備えられている。全部で六スペースあり、入口手前から二つを客が使用していたた為、私は手前から三つ目に入った。テーブル左端のボタンを押すと、標的となる紙が電動で降りてくる。紙には人間形の絵がプリントされており、標的までの距離はおよそ十メートル程だ。
 私はスパイダーのスライダーを引き、安全装置を外すと、両肘をテーブルに固定して引き金を引いた。弾は狙い定めた中央より少し左上を貫通した。
 考えてもみたら、トイガンを撃ったのは初めての経験だ。実銃に比べて照準精度は劣るものの、重量も反動も比べ物にならないくらい少なく楽に扱える。隣の客が「お姉さん、良い腕してますね。よかったら、うちのチームに入りませんか?」と声を掛けてきた。実銃で二年間毎日射撃訓練させられていたんだ。トイガンといえど、それなりに命中して当然だ。「店員なんです」とやんわり断ると、今度は毎日撃っているのか聞いてきたので、毎日ではないがしょっちゅう撃つので当たるようになったんだと説明しておいた。その後、十発撃って飽きたタイミングで、弾も無くなったので射撃室を出た。
「お返しします」
 大雅にスパイダーとゴーグルを返却した。家に戻ろうとすると、昼食を作るから店番を代わるように言われた。
「今日は、私が作るの」
「何かあったの?」
「何もないよ。何もないから、何かしていたいの」
 大雅は「そぅ」とだけ返事をして、再び漫画雑誌に目を戻した。
 あれからずっと気になっている。銃に付いた砂。実際モデルガンで撃ってみたけど、ただ撃つ程度なら細部の隙間に砂が入り込むとは考えられない。第一、問題の銃には発砲した形跡はなかった。ならもっと単純に考えて、ケンさんは銃をホルスターから抜いた。そして落とし、拾った後、汚れを綺麗に拭き取って再びホルスターに戻した。銃の汚れを綺麗にしたのはケンさんではなく、警察か陽太君だと考えるのも妥当だ。
 そうなると、何故抜いたのか、と言う疑問が出てくる。それに、百歩譲って急性心筋梗塞が死因だったとしても、ゆったり座った姿勢で死んでいたといたと言う情報が御座なりになってしまう。そういえば、ケンさんの行っていた張り込みはどうだったのだろうか。実はケンさんは見てはいけないものを見てしまい、応戦しようとして失敗し、殺されたのでは。それを、陽太君は隠している。と、考えれば合点がいく。近頃の彼は、嘘が多すぎる。まぁ、何か考えがあっての事なんだろうけど。
 考えを巡らせていたら、昼食のオムライスが完成した。奮発して卵を三個ずつ使ったし、中身はちゃんとチキンライスだ。ケチャップで、何書こうかな。
 先に昼食の用意が出来た旨を電話すると、私はオムライスに向かって苦悩する。ケチャップで何を書くか、こう言うのが案外思い付かず難しいのだ。
「何してるの?」
 突然背後から大雅の声がし、思わずケチャップを投げ出しそうになってしまった。驚いた、本当にびっくりした。
「おぉ、トロトロ卵。さっさと喰おうぜ」
「まだ、ケチャップで書いてない」
 彼は、呆れたように言う。
「何を?」
「それを今考えてるの!」
「なんでもいいよ」
「なんでも良くない」
 今度は、背後で「腹減った」をしつこいくらい連呼し出すので、私はケチャップで“バカ”と書いた。
 本当に最近は、心身共に疲れることが多い。大雅が不調の際は私が家事を行っていたのだが、こうしてなんでもない日に料理を作るのは初めて逢った日以来だ。
「私だって、ご飯作れるんですからね」
「知ってるよ」
 彼が、ケチャップのバカを崩した。そして、一口食べると、突然口元を押さえて笑い出した。
「何さ。美味しくなくて、悪かったわね」
 私も一口食べたが、至って普通の味だった。
「違う、卵の殻」
 だそうだ。そんなに笑うことではないと思うのだが。
「大丈夫。美味しいよ」
 だけど、久しぶりに笑った顔を見たような気がする。この笑顔を、この先もずっと眺めていけたらいいのにな。そんな事を、ふと思った。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


コメントを残す

おすすめ作品